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ピンと張られた分子鎖を定量する「羽ばたき型蛍光Force Probe」の開発―高分子材料の中で力のかかった分子鎖の比率を蛍光イメージングで計測する―

【本学研究者情報】

〇材料科学高等研究所 准教授 藪 浩
研究室ウェブサイト

【概要】

京都大学大学院理学研究科の齊藤尚平准教授・小谷亮太博士(現・東レ株式会社)、東北大学材料科学高等研究所・藪浩准教授(ジュニアPI・東北大学ディスティングイッシュトリサーチャー)らの研究グループは、約100 pN(ピコニュートン)注1)という微小な力に応答して蛍光色を変化させる分子として、羽ばたき型の蛍光Force Probe注2)を開発しました。これは、亀裂などの破壊が起こる前に、高分子材料の中でどのくらいの比率の分子鎖がピンと張られているかを知る上で最適な新しいタイプの蛍光Force Probeです。

一般に高分子材料が変形して特定の分子鎖に無理な力がかかると、ついには化学結合が切れてしまい、材料の破壊が進みます。しかし、そうなる前のタイミングでは、およそ100 pNの力が分子鎖にかかってピンと張られます。本研究グループは、剛直な2つの翼を柔軟な関節でつなぎ合わせた独自の「羽ばたく蛍光分子」FLAP注3)が、この領域(理論値で約100 pN)の力に可逆応答する蛍光Force Probeとして機能することを見出しました。FLAPを分子鎖に導入しておくことで、ピンと張られた分子鎖の比率に応じて局所の蛍光スペクトルが変化します。また、実際に高分子材料の延伸実験に運用した結果、分子鎖に伝わる力の偏りに関して新しい高分子物理学の知見が得られました。このような分子レベルの情報は、蛍光スペクトルの形に反映されるため、顕微鏡技術と組み合わせれば、動画撮影による時間的変化や空間分布の計測もできます。

 今後は、1) 高分子力学におけるさらなる分子描像の解明を進めるとともに、2) 生体材料への応用によるライフサイエンス研究における使用や、3) 流体の内部や流路の壁面にかかる力を定量する技術へ展開できます。  本研究成果は2022年1月13日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

【用語解説】

注1)pN(ピコニュートン):力の単位であり、1 N(ニュートン)の1兆分の1に相当する。原子間力顕微鏡(AFM)の研究から、通常の共有結合が1本切断されるのに必要な力は数nN(= 数千pN)オーダーであり、特に切れやすい共有結合でも200 pNの力が必要であることがわかっている。

注2)蛍光Force Probe:力に応答して蛍光シグナルを変化させる物質。一般に、目に見えない観察対象や現象を可視化するために、蛍光Probeを対象に添加する。蛍光Force Probeを用いると、観察対象の化学構造にかかる力を可視化することができる。

注3)FLAP:京都大学の齊藤尚平研究者のグループが独自に開発した羽ばたく分子系の総称で、Flexible and Aromatic Photofunctional systemsを略したもの。これまでに、紫外光で剥がせる接着材料や、不均一物質のサラサラ度の分布を可視化する蛍光粘度プローブなどへの応用が提案されている。

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問い合わせ先

東北大学 材料科学高等研究所 広報戦略室
Tel:022-217-6146
Fax:022-217-5129
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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