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光がつくる電子のレンズ 原子ひとつまで分解する電子顕微鏡の実現に向けた新技術を提案

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 助教 上杉祐貴
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 光ビームが電子顕微鏡の探針として用いる電子ビームを絞りこむ「光場電子レンズ」として機能することを幾何光学※1にもとづいて示した
  • このレンズが電場や磁場を用いる従来のレンズでは実現できない「負の球面収差※2」を発生することを示した
  • 光場電子レンズを用いることで将来的に原子分解性能をもった電子顕微鏡を広く普及できると期待される

【概要】

電子顕微鏡は、ウイルスなどの微小物、半導体デバイスの微細構造、さらには物質の原子配列をも可視化できる観察ツールです。こうした高い分解能を達成するには、探針となる電子ビームを、原子ひとつの大きさに匹敵する0.1 nm(1 nm = 10億分の1 m)以下にまで絞りこむ必要があります。東北大学 多元物質科学研究所の上杉祐貴助教らの研究グループは、これまで電場や磁場で構成されていた、電子ビーム集束用のレンズを、レーザーなどの強力な光ビームによる「光場」で実現する、新しい手法を発案しました。

この「光場電子レンズ」に対して、幾何光学にもとづいた理論的な解析により、焦点距離や球面収差を導くための重要な基礎となる公式を整備しました。これにより、誰でも容易に光場電子レンズを設計することが可能になります。また、光場電子レンズが従来のレンズでは実現できない「負」の球面収差を発生し、極小の電子ビームサイズを得るのに必要な、収差補正器としても利用できることを示しました。構造が複雑で高価な従来の磁場を用いる収差補正装置を光場電子レンズで置き換えることで、高分解能の電子顕微鏡装置を広く普及できると期待されます。

本成果は、英国時間の4月7日(木)付で、英国物理学会(Institute of Physics: IOP)の出版部門が提供する学術雑誌「Journal of Optics」誌において、新進気鋭の若手研究者を特集する「Emerging Leaders Collection」に掲載されました。

図1. z軸方向(左図では手前側から奥側)に進む電子ビームと同軸上に、ドーナツ状の強度分布をもつ光ビームを集光すると、ビーム軸方向に集束する向き(右図において赤い矢印で示す向き)に、電子は光場からポンデロモーティブ力を受ける。この結果、電子ビームに対して光場がレンズとして機能する。

【用語解説】

※1.幾何光学
カメラレンズや天体望遠鏡などの設計のほか、電子顕微鏡レンズの設計にも用いられる光学理論の体系。

※2.球面収差
理想的なレンズから射出された光線(または電子軌跡)は、光軸上の焦点位置にすべて集束する。しかし、現実には光線の集束角に応じてずれが生じ、これを球面収差という。従来の電子顕微鏡用のレンズでは、集束角が大きいほど、電子は焦点位置よりも近い位置で光軸と交差する「正」の球面収差が生じる。また、球面収差は収束角の奇数乗に比例する成分で構成され、対応する係数をそれぞれ3次、5次...、の球面収差係数と呼ぶ。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 上杉 祐貴(うえすぎ ゆうき)
電話:022-217-5146
E-mail:uesugi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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