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世界初の頭皮密着型でどこでも脳磁計の未来へ てんかん診断の精度向上と、脳磁図検査の普及拡大にはずみ

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科てんかん学分野 教授 中里信和
研究室ウェブサイト

〇大学院工学研究科先端スピントロニクス医療応用工学共同研究講座 教授 安藤康夫
ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 脳の電気活動に伴う磁場の変化(脳磁図)注1を計測する従来の脳磁計注2(SQUID脳磁計)は、液体ヘリウムで冷却する必要があるため機器が大型となり、また、頭皮から離れた状態で測定する必要があった。
  • 今回、室温稼動のトンネル磁気抵抗効果(TMR)注3密着型センサを用い、超微弱な体性感覚誘発磁界注4の測定に世界で初めて成功した。
  • TMRセンサは外部雑音にも強く、製造コストが安価で大量生産も可能であり、将来的に安価で持ち運び可能な脳磁計の開発実用化が期待される。

【概要】

脳磁計は、脳の電気活動に伴う微弱な磁場変化を計測する装置で、てんかん注5の診断など、様々な脳機能を非侵襲的に測定できます。東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野の中里信和教授と、同大学大学院工学研究科応用物理学専攻の安藤康夫教授のグループは、TMR(トンネル磁気抵抗効果)センサを利用した体性感覚誘発磁界の計測に、世界で初めて成功しました。従来の脳磁計液体ヘリウムによる冷却を必要とする大型の装置でしたが、TMRセンサはその必要がなく、頭皮に接触して脳磁図の空間精度を画期的に高めます。しかも小型で外部雑音にも強く、製造コストが安価で大量生産も可能であり、将来的に安価で持ち運び可能な脳磁計の開発実用化に期待がかかります。

本研究成果は、2022年4月12日(現地時間)、英国の科学誌Scientific Reports(電子版)に掲載されました。

図1.脳磁計の新旧比較
従来のSQUID素子を用いた磁場測定(上)は液体ヘリウムで冷却することが必要な為、2 cm厚の魔法瓶が必要で頭皮より離れて計測される。本研究で用いたTMR素子を用いた磁場計測(下)では、室温動作であり頭皮に密着して記録が可能である。

【用語解説】

注1.脳磁図:脳の神経細胞の中を流れる微弱な電流によってできる磁場。この磁場は地磁気の数億分の一というきわめて微弱な信号だが、電気で測定する脳波と比べて磁場では空間的な歪みが無視できるほど小さいため、脳の活動部位をミリメートル単位で推定できるという優れた性質を持つ。皮膚や粘膜の感覚や、聴覚、視覚、運動、言語など、あらゆる脳の活動をミリ秒単位、かつミリメートル単位で診断できる「夢の脳機能検査法」である。

注2.脳磁計:微弱な脳磁場を測定する装置。従来の脳磁計では、超伝導量子干渉素子(Superconducting quantum interference device: SQUID)と呼ばれる超伝導センサが使われていたため、これを冷却する液体ヘリウムの格納容器の壁の厚さが限界となり、磁気センサを頭皮に近づけられない(25ミリ以上)という問題があった。近年、液体ヘリウムの価格は高騰(年間2000〜3000万円の維持費)し、このことも普及が遅れる原因となっていた。また、従来のセンサは環境磁気雑音に弱く、特殊な磁気シールド室の中でしか脳磁図を測定することができなかった。

注3.トンネル磁気抵抗(TMR)効果:薄い絶縁体を挟む二層の強磁性体において、それぞれの磁化の向きが室温で電気抵抗を変化させる現象。東北大学大学院工学研究科の宮崎照宣名誉教授によって1995年に発見された。磁性体の一方の磁化が外部磁場で変化する場合、微弱な磁界を電気抵抗として計測できることになり、消費電力がきわめて低い高精度な磁気センサが実現した。これがTMR素子である。

注4.体性感覚誘発磁界:身体の皮膚や粘膜の感覚が、大脳に到達して「脳が感じる」時に出現する脳磁図。従来の超伝導を用いた脳磁計でも臨床応用がもっとも進んでいる検査法である。本研究で用いた手法は、手首の正中神経を電気で刺激した際に、刺激から約20ミリ秒後に反対側の大脳の手の感覚野から発生する磁場を測定したもの。きわめて微弱な信号であり、本研究でこれが記録できたことは、TMR脳磁計が実用化できることを示したことになり、画期的な成果といえる。

注5.てんかん:さまざまな原因で、大脳の神経細胞が過剰に興奮し、四肢や顔面などのけいれんや、さまざまな感覚症状や自律神経症状を生じる状態を「てんかん発作」とよぶ。てんかんとは、外傷、脳卒中、腫瘍、脳奇形、先天性異常などのさまざまな病気によって、てんかん発作を繰り返す病気である。全人口の1%ほどが有する疾患であり、日本では100万人の患者数がある。そのうち約7割は薬を服用し続けることによって発作を抑えることができるが、薬が効かない難治性てんかんでは、原因となる脳の部位を切除する外科治療が有効である。東北大学では2010年に、我が国初の「病院てんかん科」を創設し、本研究グループの中里信和教授が着任している。てんかんの外科治療においては、どの部位を切除するかを決定する上で、脳磁図検査はきわめて有用である。従来は液体ヘリウムを用いた高価な脳磁計しか利用できなかったが、本研究の成功によって、今後、安価で多チャンネルの室温TMR脳磁計が開発されれば、装置が爆発的に普及し、多くのてんかん患者が恩恵を受けられるものと期待される。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科学講座てんかん学分野
教授 中里 信和(なかさと のぶかず)
電話番号:022-717-7343
Eメール:nkst*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院工学研究科先端スピントロニクス医療応用工学共同研究講座
教授 安藤 康夫(あんどう やすお)
電話番号:022-752-2168
Eメール:yasuo.ando.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院工学研究科・情報広報室
電話番号:022-795-5898
Eメール:eng-pr*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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