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不安の進化に関わる分子メカニズムの一端を解明 ヒト型遺伝子変異導入マウスを用いた検証

【本学研究者情報】

〇生命科学研究科 教授 河田雅圭
研究室ウェブサイト

〇薬学研究科 教授 佐々木拓哉
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • モノアミン神経伝達物質*1の輸送に関わるVMAT1遺伝子の変異は、私たちの性格や個性に影響を与えることが報告されています。
  • VMAT1遺伝子に生じた、人類系統特異的な遺伝的変化(アミノ酸置換)は人類の進化過程で自然選択を受けてきたと考えられます。
  • 本研究では、ゲノム編集*2によりヒト型の変異を導入した遺伝子改変マウスを作製し、脳内の遺伝子発現や神経活動、行動への影響を網羅的に調べました。
  • VMAT1遺伝子のヒト型変異は、特に情動の制御に関わる扁桃体における遺伝子発現や神経活動の変化を介して不安傾向に影響する可能性が示されました。

【概要】

セロトニンやドーパミンといったモノアミン神経伝達物質は、ヒトの認知・情動機能において重要な働きを担っています。東北大学大学院生命科学研究科の佐藤大気博士(現藤田医科大学)、河田雅圭教授らは、国立精神・神経医療研究センターの井上(上野)由紀子博士ら、東北大学大学院薬学研究科の佐々木拓哉教授らとの共同研究により、神経伝達物質の輸送に関わるVMAT1遺伝子に生じたヒト特有の遺伝的変異が、脳内の遺伝子発現や神経活動、そして行動に及ぼす影響を明らかにしました。同研究グループは、VMAT1遺伝子に生じたヒト特有の遺伝的変異(アミノ酸置換)が自然選択を受けてきたことを明らかにしていましたが、生体内におけるその機能的な意義や作用機序は不明でした。本研究は、VMAT1遺伝子が特に扁桃体を中心とした情動回路を介して不安様行動に作用する機序を明らかにしただけでなく、ごくわずかな遺伝的変化(1アミノ酸置換)がヒトの情動制御に及ぼす影響を明らかにした点で重要な報告であり、私たちの性格や精神疾患のかかりやすさといった精神的な多様性の背後にある分子・神経メカニズムについて示唆を与える研究成果です。本研究結果は、7月20日付でiScience誌(電子版)に掲載されました。

図. 本研究の概要。人類系統特異的に進化したVMAT1遺伝子の変異が脳内遺伝子発現、神経活動、および行動にもたらす影響を網羅的な解析によって明らかにした。

【用語解説】

*1 モノアミン神経伝達物質

アミノ基を一個だけ含む神経伝達物質の総称であり、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンなどが含まれる。そのうち、VMAT1はヒスタミン以外を輸送し、特にセロトニンの輸送効率が高いことが知られている。

*2 ゲノム編集

生物のゲノム中にある標的配列を正確に狙って改変する技術。2012年に発表されたCRISPR/Cas9システムは、標的配列と相補的なガイドRNAとハサミの役割を持つCas9ヌクレアーゼからなり、その利便性と汎用性から多くの研究で使用されるようになった。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 河田 雅圭 (かわた まさかど) 
電話 022-795-6688
E-mail kawata*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話 022-217-6193
E-mail lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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