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ビタミンKの新たな作用とその還元酵素を発見 50年来の謎を解明

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌学分野 非常勤講師 三島英換
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 血液凝固に関連する作用が知られているビタミンKに、フェロトーシス(脂質酸化細胞死)注1を強力に防ぐ作用があることを新たに発見。
  • 還元型のビタミンKが抗酸化物質として働き、脂質の酸化を抑えることで細胞死を抑制することがわかった。
  • さらに50年以上正体が不明であったビタミンKを還元する酵素を同定した。

【概要】

フェロトーシス(ferroptosis)は脂質酸化依存性細胞死とも呼ばれる細胞死の一つで、近年、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患やがん細胞に対する抗がん薬の感受性などに関与することが知られています。世界的に注目を浴びている生命事象であるとともに、これらの病気の治療薬の標的となることが期待されています。

東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌学分野 三島英換(みしま えいかん)非常勤講師、医工学研究科 阿部高明(あべ たかあき)教授、農学研究科の伊藤隼哉(いとう じゅんや)助教、仲川清隆(なかがわ きよたか)教授らはドイツ・ヘルムホルツセンターミュンヘンとの国際共同研究により、ビタミンKにはフェロトーシスを強力に防ぐ作用があることを新たに発見しました。さらに、これまで50年以上その正体が不明であったビタミンKを還元する酵素を同定しました。これまで、抗凝固薬注2として広く使用されているワルファリン注3中毒時にビタミンKの投与がなぜ解毒剤となるのかは謎でしたが、本研究によりそのメカニズムが明らかとなりました。さらに本研究成果は、フェロトーシスが関わる様々な病気の治療薬の開発や応用へと発展することが期待されます。

本成果は、2022 年 8月3 日(英国標準時16時)に国際学術誌「Nature」にオンライン掲載されました。

(左)血液凝固に関わるビタミンKの作用。ビタミンKは、酸化型ビタミンK→還元型ビタミンK→ビタミンKエポキシドへと変換される回路をまわることで、血液の凝固に必要なタンパク質(凝固因子)が作られ、出血した際に血を止める役割を果たす。ワルファリンはこのビタミンKサイクルをとめることで凝固因子が作られなくなるため血を固まりにくくする。ワルファリンが効いている状態でも、ビタミンKはFSP1の働きによって還元型ビタミンKへと変換する経路があるため、ワルファリン中毒になった時でもビタミンKを投与することで凝固因子がつくられ止血可能な状態にできる。
(右)ビタミンKによるフェロトーシスの抑制。酸化型ビタミンKはFSP1の働きによって還元型ビタミンKに変換される。還元型ビタミンKは脂質ラジカルを捕捉することでフェロトーシスを抑えるとともに、酸化型ビタミンKに戻り再びFSP1によって還元される。

【用語解説】

注1.フェロトーシス(脂質酸化細胞死):2012年に新たに提唱された、アポトーシスとは異なる制御性の細胞死の型の一つ。細胞膜成分のリン脂質の過酸化によって引き起こされる細胞死。脂質過酸化は酸化ストレスによっても生じるためビタミンEなどの抗酸化物質によって抑えられる。

注2.抗凝固薬:ワルファリンをはじめとする血を固まりにくくする薬。

注3.ワルファリン:ビタミンKエポキシド還元酵素の阻害剤であり、ビタミンKサイクルをストップし血液凝固に対するビタミンKの作用を止めることで血を固まりにくくする薬。血栓症や塞栓症の予防のために広く使用される。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科腎・膠原病・内分泌学分野
非常勤講師 
(現:ヘルムホルツ研究センター客員研究員[ドイツ])
三島英換(みしま えいかん)
E-mail: eikan*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 広報室
東北大学病院 広報室
TEL: 022-717-8032
FAX: 022-717-8187
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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