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300万気圧を超える圧力下で金属鉄の音速測定に成功 ~地球内核の解明に向けた新たな一歩~

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科地学専攻 特任研究員 生田大穣
研究者紹介

【発表のポイント】

  • 地球の内核境界(注1)に相当する300万気圧(注2)を超える極限圧力下での金属鉄の音速測定に初めて成功しました。
  • 高度に最適化された非弾性X線散乱測定法(注3)と超高圧発生法の開発によって先行研究の倍に相当する300万気圧を超える圧力下での音速測定が可能になりました。
  • 地震学的研究による内核の音速は、その条件下での金属鉄の音速よりも非常に遅いことを示し、その音速を説明する内核の化学組成を提案しました。

【概要】

地球の内核の構造と化学組成は、地球科学における未解明な最重要課題の一つであり、高圧下での金属鉄の音速は内核の解明のための重要な手掛かりの一つです。東北大学大学院理学研究科の生田大穣博士と大谷栄治名誉教授は、理化学研究所放射光科学研究センター物質ダイナミクス研究グループのバロン・アルフレッドグループディレクターとそのグループメンバーおよび、愛媛大学地球ダイナミクス研究センターの境毅准教授と共同で、大型放射光施設SPring-8(注4)のBL43LXU理研量子ナノダイナミクスビームライン(注5)の世界最高輝度の放射光X線と、ダイヤモンドアンビルセル(注6)を用いた静的高圧実験(注7)によって、音速測定の測定圧力条件を先行研究の倍に相当する300万気圧以上に拡張し、地球の内核境界に相当する圧力下での金属鉄の音速測定に初めて成功しました。本研究の結果から、地震学的研究によって決定された内核の音速は、本研究で明らかにした内核条件での金属鉄の音速と比べて、縦波速度で4%、横波速度で36%遅いことが分かりました。この結果から、地球の内核に硫黄、ケイ素が多く含まれる一方で、酸素に乏しい特徴を持つことが示唆されました。

本研究成果は、日本時間2022年11月25日午後7時(英国時間:2022年11月25日午前10時)公開のNature Communications誌に掲載されました。

図1. 300万気圧を超える超高圧での金属鉄と高圧装置のダイヤモンドからの非弾性X線散乱強度の測定例。1秒間で0.01-0.02カウント程度の弱いシグナルでも、試料である金属鉄(青い点線)からの非弾性X線散乱のシグナルが高圧装置であるダイヤモンドからのシグナル(オレンジ色の破線)と明確に分離できる。

【用語解説】

(注1)地球の内核境界
地球の最深部に存在する固体の内核とその外側に位置する液体の外核の境界。圧力は約330万気圧に相当する。

(注2)圧力の単位
1気圧=1.01325×105パスカル、つまり300万気圧は304ギガパスカルに相当する。

(注3)非弾性X線散乱測定法
物質にX線を照射した際の結晶格子による非弾性散乱によって、物質の格子振動を観測する手法。格子振動の音響モードの振動数が音速である。音速の測定法は何通りか存在し各々長所と短所があるが、静的圧縮下にある金属の音速を精度良く測定する手法としては、非弾性X線散乱法による測定がほぼ唯一の手法である。

(注4)大型放射光施設SPring-8
兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。高輝度光科学研究センター(JASRI)が利用者支援等を行っている。放射光とは、亜光速まで電子を加速させつつ、その進行方向を電磁石によって曲げた際に発生する細く強力な電磁波のことである。SPring-8ではこの放射光を用い基礎科学から産業利用までの幅広い研究が行われている。

(注5)BL43LXU理研量子ナノダイナミクスビームライン
BL43LXU理研量子ナノダイナミクスビームラインはSPring-8に設置されている理研ビームラインの一つであり、バロン・アルフレッドグループデイレクターが率いる理化学研究所放射光科学研究センター物質ダイナミクス研究グループによって設計され、運用されている。このビームラインは、非弾性X線散乱法を用いてナノメートルスケール(原子間距離レベル)で物質の格子振動を観測し、物質内での音速を決定することができるほか、物質のさまざまなダイナミクスの研究が行われている。物質ダイナミクス研究グループは10年前からこのビームラインにおいて高圧下での物質内の音速測定の最適化を研究している。

(注6)ダイヤモンドアンビルセル
ダイヤモンドを用いた高圧発生装置。入手可能な物質としては最も硬い物質であるダイヤモンドで試料を挟み込むことで高圧を発生する。

(注7)静的高圧実験
実験室で行う高圧実験の圧力発生法としては、大きく分けると動的圧縮によるものと静的圧縮によるものがある。動的圧縮はレーザーなどを用いて試料に瞬間的な高圧と高温を発生させる方法である。本研究で用いた静的高圧実験は、継続的に高圧を発生させる実験であり、動的圧縮と比べ試料の状態が安定しているため、任意の実験条件における物質の物性を精度良く測定することができる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
特任研究員 生田 大穣(いくた だいじょう)
E-mail:dikuta*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

名誉教授 大谷 栄治(おおたに えいじ)
E-mail:eohtani*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL:022-795-6662

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL:022-795-6708

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