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内在性脂質運搬機構を利用した皮膚リンパ管での遺伝子発現制御技術の開発 リンパシステムを標的としたRNA創薬基盤として期待

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 教授 秋田英万
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 皮下投与された脂質ナノ粒子(LNP)注1がアポリポタンパク質E注2を吸着し、皮膚のリンパ管内皮細胞注3に選択的に取り込まれることを発見した。
  • 脂質ナノ粒子に搭載したRNAによりリンパ内皮の遺伝子発現制御に成功した。
  • リンパ管内皮細胞の機能不全に起因するリンパ浮腫等の難治性疾患の治療への応用が期待される。

【概要】

リンパ管は体液の循環や免疫に関わる細胞および外来の微生物等の通り道であり、その管腔を構成するリンパ管内皮細胞(LEC)の機能的な異常がリンパ浮腫などの病態に関わっているとの報告があります。しかしながら、リンパ管内皮細胞で選択的に遺伝子発現を制御する方法は報告されていませんでした。

細胞内の環境に応答して生体膜を突破する脂質ナノ粒子(Lipid NanoParticle; LNP)は、RNAを細胞質に届ける技術であり、世界発のsmall interference RNA (siRNA注4)を用いた核酸医薬や、新型コロナウイルスに対するRNAワクチンにも使われています。東北大学大学院薬学研究科の秋田英万教授、櫻井遊講師および日油株式会社を中心とする共同研究グループは、LNPの表面に修飾する水溶性ポリマーの種類や密度を最適化することで、皮下投与した脂質ナノ粒子をリンパ液中のアポリポタンパク質Eと吸着させ、リンパ管内皮細胞に取り込ませられることを世界で初めて明らかにしました。さらに、脂質ナノ粒子にsiRNAを搭載することにより、リンパ内皮細胞内での遺伝子発現を制御することに成功しました。本研究の知見は、リンパ管内皮細胞の機能を制御する新たな戦略を提唱するものであり、新規治療法に繋がるものと期待されます。

本研究成果は、2022年11月23日(現地時間)に「Journal of Controlled Release」誌電子版に掲載されました。

図1 アポタンパク質Eの吸着とそれに引き続いて起こる脂質ナノ粒子の取り込みの模式図

【用語解説】

注1)LNP
脂質分子とその内封物(RNA、DNAなど)から構成される直径およそ100 nm程度の極小サイズの粒子のことを指します。近年ではCOVID-19に対するワクチンとして、ウイルスのスパイクタンパク質の遺伝情報を持つメッセンジャーRNAを内封したLNPが話題となりました。

注2)ApoE
生体内に存在する脂質の運搬体に結合するアポリポタンパク質ファミリーの一種です。アポリポタンパク質Eは、肝細胞などが発現している低密度リポタンパク質(いわゆる悪玉コレステロール)の受容体に認識されるための目印として働いています。

注3)LEC
血管と並ぶ脈管系であるリンパ管を形作るリンパ管内皮細胞のことを指します。リンパ管は、血管とは異なり無色透明であることから、リンパ系やそれを構成する細胞の解析は進んでいませんでした。2000年代にLECを識別するための遺伝子が報告されてから、近年急速に解析が進んでいます。リンパ浮腫などの体液循環に関わる機能の他、免疫細胞に対しても活性化を抑制するような機能があることが明らかになっています。

注4)siRNAまたは小分子干渉RNA
短い二本鎖で構成されるRNAのことを指し、細胞内でRNA干渉により対象の遺伝子のメッセンジャーRNAを分解することができる。その遺伝子は、メッセンジャーRNAが無くなるために、タンパク質へと翻訳されなくなり機能を発揮できなくなります。RNA干渉は、2006年にノーベル生理学・医学賞の受賞対象となった現象です。外来から導入したRNAの配列依存的にメッセンジャーRNAを分解する機構のことを言います。対象の遺伝子の働きを効率的に抑制できることから、医薬品としての研究が盛んに行われています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 
教授 秋田 英万(あきた ひでたか)
電話 022-795-6831
E-mail  hidetaka.akita.a4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院薬学研究科 
講師 櫻井 遊(さくらい ゆう)
電話 022-795-6833
E-mail  yu.sakurai.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
電話 022-795-6801
E-mail ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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