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ファンデルワールス力の機構を分子レベルで解明  ─環境に敏感な生体適合性材料のデザインに新たな機軸を提供─

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科物理学専攻 特別研究員 髙橋まさえ
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 高輝度放射光(注1)とテラヘルツ光(注2)を用いてファンデルワールス極限(注3)のごく弱い水素結合による疎水性水和(注4)の調節を観測しました。
  • 多方面ですでに実用化されている生体適合性材料について分子内構造をもとにファンデルワールス相互作用の影響を分子レベルで解明しました。
  • 非晶質材料の複雑な振動吸収スペクトルを、高精度第一原理計算(注5)を駆使して的確に解析しました。

【概要】

ファンデルワールス相互作用は弱く柔軟で、ヤモリが壁に貼りつく力、虫が葉にとまる力などのもととなり、自然界では多くの場面で観ることができます。その発生要因は、電荷分布の時間的揺らぎに起因する純粋に量子物理学起源の力によるものですが、近年ようやく分子レベルでの理論的取り扱いが可能となってきました。

東北大学大学院理学研究科物理学専攻の高橋まさえ研究員と松井広志准教授らの研究グループは、高輝度放射光(赤外線領域)とテラヘルツ光を用いた測定と高精度第一原理計算による理論解析をもとに、生体適合性材料MPC(注6)ポリマーの疎水性水和機能(図1)を調節するファンデルワールス相互作用を分子レベルで明らかにしました。本研究は、ファンデルワールス相互作用の影響について分子レベルで理解することにより、特に医療用デバイスとしてすでに多方面で実用化されている生体適合性材料のデザインに新たな機軸を提供すると期待されます。

本研究の成果は、2022年11月27日にNature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

図1. MPCポリマーの分子内塩構造と疎水性水和
N+とOが分子内塩を作り(青矢印)、極性の小さいメチル基やメチレン基が疎水性水和に寄与します

【用語解説】

(注1)放射光
電子を光速に近い速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な光。

(注2)テラヘルツ光
周波数が1×1012 Hz (テラヘルツ)周辺の電波と光波の中間の電磁波。適切な光源や検出器がなく、この領域は長く光の暗黒帯と呼ばれていました。近年の光源と検出器の進歩により、テラヘルツ光を利用した研究は急速な進歩を遂げています。

(注3)ファンデルワールス極限
ファンデルワールス力は中性分子間に働く引力で、最初に提唱したファンデルワールスの名前がつけられています。水素結合の範囲は広く、よく知られている水分子どうしの水素結合を中心として、今回観測したごく弱いファンデルワールス極限から、強い共有結合極限まであります。弱い水素結合に主に寄与する力が電荷分布の時間的揺らぎに起因する分散力(主としてファンデルワールス力)であることから、弱い水素結合の極限はファンデルワールス極限といわれています。

(注4)疎水性水和
非極性溶質が水に溶けること(図1参照)。

(注5)第一原理計算
物質の電子状態を計算する方法。実験パラメータを使わない計算で、電子状態、最適構造、物性などを、実験とは独立に予測できます。

(注6)MPC
物質名2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの略。MPCのポリマーは生体膜(細胞膜)の構成成分であるリン脂質極性基を導入した高分子で、タンパク質や血球等が極めて付着しづらくすることができます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
特任研究員 高橋まさえ(たかはし まさえ)
電話:022-795-6786
E-mail:masae.takahashi.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院理学研究科物理学専攻
准教授 松井広志(まつい ひろし)
電話: 022-795-6604
E-mail: hiroshi.matsui.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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