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K中間子と陽子が織りなす風変わりなバリオンを測定 ―Λ(1405)ハイペロンの複素質量の直接測定に成功―

【本学研究者情報】

電子光理学研究センター 教授 大西宏明
センターウェブサイト

【発表のポイント】

  • K中間子と陽子が結合した風変わりな量子状態:Λ(1405)の複素質量測定に成功
  • 重陽子中の反応を利用して、K中間子と陽子を融合させてΛ(1405)を合成
  • 中性子星中心部の超高密度核物質の記述に繋がる研究の進展が期待

【概要】
 大阪大学核物理研究センターの井上謙太郎特任研究員、川崎新吾特任研究員、野海博之教授(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所・特別教授)、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所、日本原子力研究開発機構、東北大学電子光理学研究センター、J-PARCセンター、イタリア国立原子核研究所、ステファンメイヤーサブアトミック物理学研究所他からなる研究グループは、K中間子※1と陽子から直接Λ(1405)※2粒子を合成し、その複素質量※3の直接測定に世界で初めて成功しました。

Λ(1405)は、K中間子と陽子が結びついた風変わりな状態ではないかと長年論争が続いてきました。K中間子と陽子から直接Λ(1405)を合成できれば、その性質を調べる上で有効ですが、Λ(1405)は、K中間子と陽子の質量和より軽いため、二粒子の衝突ではこの反応を起こせないことが研究上の障壁でした。

本研究グループは、陽子と中性子がゆるやかに結合した重水素原子核(重陽子)に負電荷のK中間子(K^-)を照射して中性子を蹴り出し、反動でエネルギーを失ったK中間子が残る陽子と融合してΛ(1405)が合成される一連の反応過程の測定に成功しました。この過程を詳細に分析し、Λ(1405)の複素質量を得たことから、Λ(1405)がK中間子と陽子の散乱における共鳴状態であることが直接示されました。さらに、Λ(1405)とK中間子と陽子への結合の強さからΛ(1405)がK中間子と陽子の結合状態であることを支持する結果が得られました。

本研究の結果は、K中間子と核子の相互作用を与え、最近発見された新奇なK中間子原子核※4を理解する基礎的な情報となります。さらには、中性子星※5の中心部のような超高密度核物質の記述に繋がる理論の進展が期待されます。

本研究成果は、2022年12月20日(火)(日本時間)に、エルゼビア社の学術雑誌「Physics Letters B」(オンライン)にて掲載されました。

図1 風変わりなバリオン:Λ(1405)および関連する物質形成と進化の概念図

【用語解説】

※1 K中間子
ストレンジクォークを含むメソンの中で最も軽い粒子。とくに、 はストレンジクォークと反アップクォークからなり、負の電荷をもつ。

※2 Λ(1405)
Λ(ラムダ)ハイペロンの第一励起状態。

※3 複素質量
一定の時間(寿命)で複数粒子に崩壊する不安定な粒子を共鳴粒子と呼び、その質量は、量子力学における不確定性関係によって、寿命の逆数に比例する拡がり(状態幅)を持つ。共鳴粒子の生成と崩壊の過程を記述する散乱理論によると、共鳴粒子の質量は複素数に拡張される。本記事ではこれを複素質量と表現している。その実部は質量の中心値を表し、虚部の2倍が状態幅を表す。

※4 K中間子原子核
K中間子と原子核の束縛状態。本研究と同じ実験装置で、近年、K中間子と2つの陽子からなるK中間子原子核状態が発見された。

※5中性子星
重い恒星が燃え尽きて超新星爆発を起こした後にできる中性子を主成分とする天体。半径10km程度のコンパクトな星だが、その質量は太陽の1~2倍に達する。その中心部の密度は13あたり10憶トンを超えるとされる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関して)
東北大学電子光理学研究センター
教授 大西 宏明
電話: 022-743-3400
E-mail:ohnishi*lns.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)


(報道に関して)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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