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特別な脂質過酸化プロセスに伴う新たな細胞死抑制機構を発見 神経変性疾患などの関連疾患の新規創薬に繋がる研究成果

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科衛生化学分野
教授 松沢厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • アラキドン酸(注1)の過酸化が直接的な引き金となり、分子によって制御される細胞死(注2)フェロトーシス(注3)の新規抑制機構として、一部のアラキドン酸がトランスアラキドン酸(注4)に変換される非酵素反応を発見しました。
  • アラキドン酸には、脂質過酸化(注5)およびフェロトーシスの促進能がある一方、トランスアラキドン酸にはいずれの促進作用も認められませんでした。
  • 本研究成果は、神経変性疾患などの様々なフェロトーシス関連疾患の疾患発症機構の解明および新規創薬に繋がることが期待されます。

【概要】

 フェロトーシスは分子によって制御される細胞死で、生体膜脂質(特にアラキドン酸)の鉄依存的な過酸化が引き金となり、炎症誘導性の壊死(注6)が引き起こされます。この細胞死は、神経変性疾患などの様々な疾患の発症・増悪に寄与することが知られていますが、その制御機構には不明な点が多く残されています。

 東北大学大学院薬学研究科の平田祐介助教、松沢厚教授らの研究グループは、The Institute of Organic Synthesis and Photoreactivity-National Research Council (ISOF-CNR:イタリア・ボローニャ) のChryssostomos Chatgilialoglu教授らの研究グループとの国際共同研究により、脂質過酸化反応時に、一部のアラキドン酸がシス-トランス異性化反応(注7)によってトランスアラキドン酸に変換されることを発見しました。アラキドン酸の細胞への添加は、脂質過酸化およびフェロトーシスを促進した一方、トランスアラキドン酸の添加時には、そのような促進は起きませんでした。本機構は、フェロトーシスの抑制機構として重要な役割を果たしており、神経変性疾患やがんなどの関連疾患の発症機序の全容解明、および新規創薬に繋がる重要な基礎的知見となります。

 本研究の成果は、5月29日に国際科学雑誌Free Radical Biology and Medicineにオンライン上で掲載されました。

図. トランスアラキドン酸による新規フェロトーシス抑制機構

【用語解説】

注1. アラキドン酸
不飽和脂肪酸(シス脂肪酸)の一種で、カルボキシル基から数えて5、8、11、14番目の炭素に二重結合(全てシス型)が付加した、20個の炭素鎖からなるカルボン酸。逆側のメチル基末端から数えると、6番目の炭素に初めて二重結合が現れることから、ω-6脂肪酸に分類される。

注2. 分子によって制御される細胞死
多細胞生物において、様々な分子の制御下で引き起こされる細胞死のこと。約50年前に、アポトーシスと呼ばれる、自発的な非壊死性の細胞死が見つかって以降、非壊死性のパータナトス、そしてネクロプトーシス、ピロトーシス、フェロトーシスなどの壊死性の細胞死が次々と発見され、生体内の様々な分子によって、そのON/OFFのスイッチや、強度、持続時間などが、厳密に制御されていることが分かってきた。

注3. フェロトーシス
2012年にBrent R. Stockwellらによって発見されたプログラム細胞死の一つ(Cell, 149(5), 1060-1072, 2012)。鉄依存的な過酸化脂質の蓄積に伴って、最終的に、細胞膜の破裂を伴う壊死が引き起こされる。当初、Ras変異を有するがん細胞を選択的に殺傷するための機構として発見された経緯もあり、鉄や活性酸素を特に豊富に含むがん細胞が、一般にフェロトーシスに高い感受性を示すことから、有力な新規がん治療戦略の1つとされ、その臨床応用が期待されている。また、神経変性疾患や虚血性疾患など、非常に多くの種類の疾患の病態発症・増悪に寄与することが報告されており、関連疾患の発症機序の解明、新規治療法開発の観点からも、大変着目されている。

注4. トランスアラキドン酸
アラキドン酸の5、8、11、14番目の二重結合のいずれか1箇所が、シス型からトランス型に異性化した構造を持つ脂肪酸。有機硫黄ラジカル(RS・)による異性化反応は非酵素反応であるため、異性化する位置の選択性は低く、4種類のトランス変換体が混合した状態になる。正式には、モノトランスアラキドン酸と呼称すべきだが、簡単のため、先頭の「モノ」を省略して記載している。

注5. 脂質過酸化
脂質が過剰な酸化を受ける反応のこと。フェロトーシスに関与する過酸化脂質は、その中でも、リン脂質中に含まれるアラキドン酸のような高度不飽和脂肪酸が過酸化されたものであると考えられている。

注6. 壊死
広義にはネクローシスと同義で使用されるが、ネクローシスは細胞内外の環境変化によって偶発的、受動的に起きる細胞死として定義されるため、細胞膜の破裂を伴わない自発的な細胞死であるアポトーシスと対極的な意味合いで使用されることが多い。今回本文で用いている壊死は、より狭義の、細胞が細胞膜の破裂を伴って死ぬことを示しており、フェロトーシスをはじめとしたいくつかの分子によって制御される細胞死では、壊死性の細胞死が起きることが知られている。

注7. シス-トランス異性化
シス型の二重結合が、トランス型に変換される反応のこと。非酵素的に起きる反応と、酵素が触媒して起きる反応の2種類があるが、今回脂質過酸化に伴って認められているのは、主に有機硫黄ラジカル(RS・)が担う非酵素的な異性化反応である。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 松沢 厚
TEL: 022-795-6829
E-mail: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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