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筋萎縮性側索硬化症の新規原因リピート伸長を同定

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • リピート伸長病はゲノムDNAの繰り返し配列が長くなることが原因となる疾患です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一部がリピート伸長病であることが知られていましたが、今回新たにLRP12遺伝子の5'非翻訳領域のCGGリピート伸長がALSの原因となることを発見しました。
  • 健常人では通常10から20リピートであるCGGリピートが61から100リピートに伸長するとALSを引き起こし、100リピート以上では眼瞼下垂、外眼筋麻痺等といった症状がみられる眼咽頭遠位型ミオパチーを発症させる分子メカニズムの違いを明らかにしました。
  • この研究成果は、ALSの病態の一端を明らかにし、新たな治療法の開発につながることが期待されます。

【概要】

広島大学原爆放射線医科学研究所分子疫学研究分野 川上秀史教授、久米広大准教授、独立行政法人国立病院機構呉医療センター脳神経内科 倉重毅志医長、関西医科大学iPS・幹細胞応用医学講座 六車恵子教授らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規原因としてLRP12遺伝子の5'非翻訳領域のCGGリピート伸長変異を同定しました(注1)。このリピートが100リピート以上の時、眼咽頭遠位型ミオパチー (OPDM, 注2)を引き起こすことは知られていましたが、ALS患者では61から100リピートとOPDMより短いリピート伸長を認めました。ALS患者由来のiPS細胞(注3)から分化させた運動神経では、より多くのRNA foci(注4)が形成され、ALSの病理学的特徴であるリン酸化TDP-43の細胞質内局在を認めました。一方、OPDM患者由来の運動神経では、リン酸化TDP-43の異常局在を認めず、OPDM患者の筋でMBNL1とRNA fociの共局在を認めました。以上より、CGGリピート長の違いが、異なる分子機序によってALSとOPDMの原因となることが明らかになりました。本研究によりALSの病態の一端が明らかとなり、新規治療法の開発につながることが期待されます。

なお本研究は、東北大学大学院医学研究科神経内科学分野 青木正志教授、徳島大学臨床神経科学 和泉唯信教授、同遺伝情報医学 森野豊之教授他との共同研究として行われました。

本研究成果は、日本時間2023年6月20日(火)午前1時に、学術誌「American Journal of Human Genetics」に掲載されました。

図1. iPS 細胞由来運動神経の RNA foci

【用語解説】

注1:本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学技術研究費助成事業 基盤研究(A)「筋萎縮性側索硬化症の新規原因遺伝子の同定と解析(研究代表者:川上秀史、研究分担者:六車恵子)」、同基盤研究(B)「変性疾患における小脳・大脳神経細胞の脆弱性の解析(研究代表者:六車恵子)」、同挑戦的研究(萌芽)「複合オルガノイドによるヒト脳領域間ネットワークの形成(研究代表者:六車恵子)」、大樹生命厚生財団、武田科学振興財団、土谷記念医学振興基金、上原記念生命科学財団、せりか基金、先進医薬研究振興財団、ノバルティス科学振興財団研究奨励金「複雑系脳オルガノイドによるヒト脳発生の解明と中枢神経疾患への応用(研究代表者:六車恵子)」による助成を受けて行われました。

注2 眼咽頭遠位型ミオパチー (Oculopharyngodistal myopathy; OPDM)
眼瞼下垂、外眼筋麻痺、咽頭筋障害、四肢遠位筋障害をきたす筋疾患。

注3 iPS細胞
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)のことを指す。皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することで、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力(多能性)をもち、未分化なまま試験管内で培養してほぼ無限に増殖することができる細胞。

注4 RNA foci
異常なリピート伸長をもつRNAが細胞核内で凝集したもの。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
神経内科学分野
教授 青木正志(あおきまさし)
TEL:022-717-7189
E-mail: aokim*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学病院 広報室
Tel:022-717-7149
FAX:022-717-8931
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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