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オンラインとオフラインの並行学習メカニズム 神経-グリア超回路による記憶制御機構の解明

【本学研究者情報】

〇生命科学研究科 教授 松井広
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • マウスを用いた研究で、トレーニング中に進む「オンライン」学習と遅れて成立する「オフライン」学習は独立した学習過程であることが示されました。
  • 脳内グリア細胞(注1)からのグルタミン酸(注2)放出を抑制すると、オンライン学習は完全に阻害されましたが、オフライン学習は支障なく成立しました。
  • オンライン/オフライン学習の二つの並行記憶形成過程のそれぞれに影響を与えるグリア細胞の機能を理解することで、効果的な学習・リハビリ法の開発につながることが期待されます。

【概要】

学習過程にはトレーニング中に即座に上達するオンライン学習と、休憩中や翌日にかけてじわじわと身につくオフライン学習があります。東北大学大学院生命科学研究科の金谷哲平研究員(研究当時、日本学術振興会特別研究員)、松井広教授(大学院医学系研究科兼任)らのグループは、この二つの学習過程が独立・並行して成立することを示しました。

脳内には情報処理を担う神経細胞に加えて、ほぼ同じ容積を占めるグリア細胞があります。マウスのグリア細胞からのグルタミン酸放出を促進・抑制すると、オンライン学習は亢進・阻害されました。一方、訓練後の休憩期間のオフライン学習は、オンライン学習の成果とは関係なく、独立して進行しました。このように、グリア細胞は記憶のしやすさの一面に影響を与えることが解明されました。

本成果は、記憶形成過程におけるグリア細胞の機能を理解することで、効果的な学習やリハビリの手法を開発することに貢献すると期待されます。

本研究成果は、2023年6月27日付でGlia誌にオンライン掲載されました。

DOI:https://doi.org/10.1002/glia.24431

図1.オンライン学習とオフライン学習の並行仮説。縦縞模様が左右に振れる画像をマウスに見せると、初めはうまく追随できませんが、トレーニングを重ねると次第に正確に画像を追随できるようになります。今回の研究では、トレーニングの最中に進むオンライン学習とトレーニング後の休憩中にゆっくり進むオフライン学習があり、それぞれの学習過程に脳内グリア細胞の機能が関わることが示されました。

【用語解説】

注1.グリア細胞: 脳を構成する細胞の種類で、神経細胞とは異なるものは総じてグリア細胞と呼ばれます。従来、グリア細胞は、脳の隙間を埋めるノリのような存在であり、脳内のエネルギー代謝やイオン環境を制御する機能があることが示されてきました。しかし、近年、神経細胞とは異なる方法で、脳内情報処理に関わることも次々と明らかにされてきており、脳と心の機能におけるグリア細胞の役割に大きな注目が集まってきています。なお、グリア細胞は、大きく分けて、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトに分類されます。今回は、他のグリア細胞については検討せず、本リリースで、グリア細胞と表記されている箇所は、アストロサイトのことを意味します。なお、小脳バーグマングリア細胞は、小脳におけるアストロサイトの一種として分類されています。

注2. グルタミン酸: 脳内で使われている主要な興奮性神経伝達物質。ひとつの神経細胞から別の神経細胞の間で形成される興奮性のシナプスでは、シナプス小胞に詰められたグルタミン酸が開口放出され、細胞外にグルタミン酸が拡散し、神経細胞の受容体に結合することで、その神経細胞に興奮性の信号が伝わることが知られています。近年、グルタミン酸がグリア細胞からも放出されており、神経細胞の活動を修飾することが示されています(Beppu et al., Neuron 2014)。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 大学院生命科学研究科
超回路脳機能分野
教授 松井 広 (まつい こう)
電話番号:022-217-6209
Eメール:matsui*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 大学院生命科学研究科 広報室
担当:高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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