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超硫黄分子による心機能の制御メカニズムを解明 虚血性心疾患や難治性心不全などの診断・治療への応用に期待

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科環境医学分野 教授 赤池孝章
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 超硫黄分子(注1)が、心血管系の一酸化窒素(nitric oxide, NO)(注2)の制御因子であることを明らかにしました。
  • 超硫黄分子が、NOを代謝する酵素であるADH5(alcohol dehydrogenase 5)(注3)の触媒活性を発揮していることを発見し「超硫黄触媒反応: Supersulfide Catalysis」と命名しました。
  • 超硫黄触媒反応が、ADH5の活性制御を介してNOによる心臓の機能を向上させることを明らかにしました。
  • 超硫黄触媒反応によるNO代謝制御を創薬などの医療技術開発に展開することで、動脈硬化や心筋梗塞などの虚血性心疾患や難治性の心不全などの診断・治療・未病予防などに応用が可能です。

【概要】

NOは強力な血管拡張因子であり、また、脳の記憶を維持し、感染防御機能や幹細胞の分化維持やがん細胞の悪性化などに関わることが広く知られています。NOと相互作用する分子の一つとして、多彩な生理機能を持つミラクル物質である超硫黄分子が知られていますが、その生理機能は不明のままでした。

東北大学大学院医学系研究科環境医学分野の赤池孝章教授、大阪公立大学の笠松真吾助教らの研究グループは、組換えタンパク質や細胞およびマウスを用いて、超硫黄分子が「超硫黄触媒反応」を介してADH5によるNO分解代謝活性を担っていることを発見しました(図1)。また、このNO分解代謝活性は、ADH5のホルムアルデヒド(注4)解毒反応と超硫黄反応が連動することで発揮されることを見い出しました。さらに、九州大学との共同研究により、ADH5の遺伝子改変マウスを用いて、超硫黄触媒反応を制御することで心臓の機能を向上させることができることを明らかにしました。今後、超硫黄触媒反応を創薬研究などに応用することで、虚血性心疾患や難治性心不全のみならず、感染症、生活習慣病、動脈硬化、糖尿病などの代謝性疾患、がんやアルツハイマー病などの神経変性疾患などの予防・治療法の開発を目指します。

本研究成果は、2023年8月18日付けで国際学術誌Science Advancesに掲載されました。

図1. 超硫黄触媒反応によるNO代謝と心機能シグナル制御
ADH5は、亜鉛(Zn2+)配位タンパク質として、ホルムアルデヒド解毒代謝と一酸化窒素(NO)シグナル調節に関与しており、その活性中心のシステインにおいて超硫黄分子(Sn)による全く新規の超硫黄触媒反応がNO代謝を制御していることが分かった。

【用語解説】

注1. 超硫黄(supersulfides):ポリスルフィド構造を分子内に有する硫黄代謝物の総称。硫黄原子が連結(カテネーション)したポリスルフィド構造により、求核性と親電子性を併せ持ち、多彩な生物活性を示す。

注2. 一酸化窒素(nitric oxide, NO):血管弛緩因子として発見され、1998年にノーベル生理医学賞が授与されたガス状生理活性物質である。血管内皮細胞や神経細胞や白血球・マクロファージやがん細胞などにより産生され、血管弛緩、心機能、記憶などの神経高次機能、感染防御、発がん・がん進展・悪性化などに関わっている。

注3. ADH5(alcohol dehydrogenase 5; アルコール脱水素酵素5):全ての生物種普遍的に保存された酵素であり、グルタチオンと超硫黄を使ってホルムアルデヒド(formaldehyde)の解毒とNOの代謝分解のふたつの反応を同時に行う。

注4. ホルムアルデヒド:シックハウス症候群の主要な環境毒性物質であるが、生体内でヒストンの脱メチル化反応に伴い生成するなど、内因性の代謝物でもある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科環境医学分野
教授 赤池 孝章(あかいけ たかあき)
TEL: 022-717-8164
E-mail: takaike*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 広報室
TEL: 022-717-8032
E-mail: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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