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栄養環境に応答した脱分化現象の同定 ――絶食後の再摂食は腸管内分泌細胞を幹細胞へとリプログラミングする――

【発表のポイント】
  • ショウジョウバエ個体が絶食から回復した際に、腸管上皮における内分泌細胞が腸管幹細胞へと脱分化を起こし、腸管サイズの適応成長を促進することを明らかにしました。

  • これまで、脱分化は損傷再生時やがん病変において起こることが知られていました。本研究では、脱分化が栄養環境の変化によっても誘導され、組織の環境適応に重要な役割を果たしていることを見出し、細胞運命の可塑性に関する理解を前進させました。
  • 昆虫と同様に、哺乳類などにおいても腸管の適応成長が起こることを考えますと、本研究で見出した栄養依存的な脱分化現象が生物種に広く保存され、腸管機能の制御に寄与していることが期待されます。

【概要】

 東京大学大学院薬学系研究科の長井広樹博士研究員、三浦正幸教授、中嶋悠一朗講師らによる研究グループは、同大学定量生命科学研究所、北海道大学、東北大学、大阪大学と共同で、栄養環境に応じた腸管サイズ増大において、分化した腸管内分泌細胞が腸管幹細胞へと脱分化(注1を起こすことを明らかにしました。これまで、脱分化は、組織損傷によって幹細胞が失われた際や、組織がん化の際に起こることが知られていましたが、生理的な条件下で脱分化が起こりうるかは不明でした。本研究グループは、ショウジョウバエ成虫の腸管において、蛹から羽化した直後の食餌摂取、あるいは絶食後の再摂食時に腸管幹細胞が増加することに着目し、このとき腸管内分泌細胞が栄養摂取に応答して脱分化を起こしていることを見出しました。また、脱分化由来の幹細胞を腸管から除去する実験系を構築し、脱分化が栄養摂取に応じた幹細胞数の増加と、それに続く腸管サイズの増大に必須であることを示しました。さらに、この栄養依存的な脱分化現象を誘導するメカニズムとして、食餌中のグルコースとアミノ酸量に反応してJAK-STATシグナル(注2が腸管内分泌細胞で活性化することの重要性を解き明かしました。

 食事摂取量に対する腸管サイズの適応反応は多様な生物種で観察されており、JAK-STATシグナルは哺乳類において損傷再生時の脱分化誘導を担っています。こうした知見から、本研究で発見した栄養依存的な脱分化現象は、ショウジョウバエのみならず、哺乳類を含む進化的に保存された機構であることが期待されます。また、細胞運命の可塑性は、腫瘍化や化生(注3)といった病態とも関連があり、本研究成果が栄養環境と疾患を結ぶ手がかりとなる可能性があります。

 

栄養環境の変動に応じた腸管内分泌細胞の脱分化モデル図



【用語解説】

注1 脱分化
分化した細胞が幹細胞へと戻る現象。生体内の組織には各組織の機能に特化した多様な分化細胞が存在しており(例:腸管上皮における吸収上皮細胞と内分泌細胞)、それらの細胞種は組織幹細胞(例:腸管幹細胞)によって日々生み出されています。定常時において、組織幹細胞から分化した細胞は他の細胞種に変化することはなく、最終的には細胞死を起こして組織から除去されると考えられています。しかし、損傷などで組織から幹細胞が失われると、分化細胞が再び幹細胞へと戻る(幹細胞へのリプログラミング、脱分化する)ことで損傷再生を可能にします。脱分化は動植物に共通した細胞の振る舞いであり、哺乳類においても、腸管、肝臓、膵臓、脳など多くの器官で損傷時や病態下における脱分化が報告されています。

注2 JAK-STATシグナル
生体内の組織において、細胞と細胞の間で行われる情報交換(シグナル伝達)の様式の1つ。ショウジョウバエでは、一方の細胞がIL-6様サイトカインであるUpd分子(Upd1, Upd2, Upd3)を分泌し、他方の細胞では受容体Domelessでそれらの分子を受容します。その結果、受け手側の細胞内では最終的に転写因子Stat92Eが活性化し、ターゲット遺伝子の発現を誘導します。JAK-STATシグナルは生物種を越えて広く保存されており、細胞増殖、分化、炎症反応など様々な細胞応答を制御しています。

注3 化生
組織を構成する細胞種が構造的あるいは機能的に異なる別の細胞種へと変化することで、組織機能が損なわれる病態。代表的なものに、食道の上皮細胞が胃の上皮細胞様に変化するバレット食道や、ピロリ菌感染時の炎症などによって胃粘膜上皮が腸粘膜上皮に転換する腸上皮化生が挙げられます。

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問い合わせ先

(報道に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 藤原英明(ふじわら ひであき)
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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