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放射光X線が地球核の化学組成を変える -新しい絶対圧力スケールを決定-

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科 地学専攻
特任研究員(研究当時) 生田大穣(イクタ・ダイジョウ)
名誉教授 大谷栄治(オオタニ・エイジ)

【概要】

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物質ダイナミクス研究グループのアルフレッド・バロン グループディレクター、東北大学大学院理学研究科地学専攻の生田大穣特任研究員(研究当時)、大谷栄治名誉教授らの研究チームは、カールスルーエ工科大学量子材料科学研究所のロルフ・ハイト副所長との国際共同研究で、新たな絶対圧力スケール[1](状態方程式)を決定し、それに基づいて、地球の核の化学組成に変更を迫る成果を発表しました。本研究成果は、太陽系外惑星の内部構造だけでなく、数百万気圧の高圧下における、物理学、化学、材料科学に関連するあらゆる物質の振る舞いに再評価を迫る重要な結果です。

今回、国際共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」[2]の世界最高輝度の放射光X線と、金属レニウムを用いて、超高圧下での圧力と物質の密度の関係を表す新しい絶対スケールを決定しました。この絶対圧力スケールは、従来の2倍となる世界最高の圧力範囲で、地球の核内部の圧力まで外挿(既知の測定値から未知の値を推定・推測)することなく適用できます。これと比べると、従来のスケールは、地球の核内部の圧力領域において、20%以上も圧力を過大評価していたことが分かりました。

地球の核は、固体鉄を主成分として、ケイ素、硫黄のような軽い物質が含まれています。今回の絶対圧力スケールを用いると、内核の条件では、固体鉄の密度が地震学的に観測された密度より8%大きく、従来の圧力スケールで見積もられていた密度との差の約2倍に当たります。この結果から、核に含まれる軽い物質は、地球の表層部(地殻)の質量の5倍以上に相当する量に見積もられることが分かりました。これは、地球内部構造の議論において非常に重要な成果です。

本研究は、オンライン科学雑誌『Science Advances』(9月8日付)に掲載されました。

絶対圧力スケールによる地球の内核境界の条件における金属鉄の密度の再評価

【用語解説】

[1] 絶対圧力スケール:
 従来の圧力スケールの基となってきたランキン・ユゴニオ断熱曲線は衝撃圧縮実験によって求められるが、衝撃圧縮は圧力上昇とともに温度も上昇する断熱圧縮であるため、圧力スケールとして用いるためには等温圧縮過程への変換が必要となる。この変換に用いられる物質の熱力学特性の算出には仮定と外挿が含まれており、特に高圧条件における変換はこの仮定と外挿法に大きく依存し、これが衝撃圧縮を基にした圧力スケールの大きな不確かさの要因となっている。この長年にわたる問題を解決することを目的として、カーネギー研究所のZhaらによって2000年に提案されたのが、等温過程において物質の縦波速度、横波速度および密度を同時に測定し、仮定を用いず三つの物理量のみを用いて等温圧縮曲線を決定する手法である。この圧力と密度の関係を絶対圧力スケールと呼ぶ。

[2] 大型放射光施設「SPring-8」:
 兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。高輝度光科学研究センター(JASRI)が利用者支援などを行っている。放射光とは、亜光速まで電子を加速させつつ、その進行方向を電磁石によって曲げた際に発生する細く強力な電磁波のことである。SPring-8ではこの放射光を用いて、基礎科学から産業利用まで幅広い研究が行われている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院 理学研究科 地学専攻
特任研究員(研究当時) 生田大穣(イクタ・ダイジョウ)
Tel: 0858-43-1215 (ex.3758)
Email: dikuta*okayama-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学名誉教授 大谷栄治(オオタニ・エイジ)
Tel: 022-795-6662
Email: eohtani*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科 
広報・アウトリーチ支援室
Tel: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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