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がん転移を阻止する新たな仕組みを発見 -液滴を介した転移促進タンパク質の分解でがんの遠隔転移を克服できる可能性-

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 衛生化学分野
教授 松沢厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • がん細胞の増殖を抑制する薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)(注1)の中には、がん細胞の転移を強力に抑制するものがあることを発見しました。
  • がん細胞の転移を抑制するTKIsは、共通して液滴注2)と呼ばれる細胞内構造体の形成を促進し、転移促進タンパク質を分解することを発見しました。
  • 本研究により、液滴を標的とした薬剤ががん転移阻止に有効であることが示されました。
  • 本研究成果は、TKIs既存薬を転移抑制剤として再開発するなど、新たな転移抑制剤の開発や画期的ながん転移阻止戦略につながると期待されます。

【概要】

 現在までに、がん細胞の増殖を抑制する薬剤として数多くのTKIsが開発されています。これらTKIsは分子標的治療薬(注3)に分類され、少ない副作用で高い治療効果が得られると期待されています。

 東北大学大学院薬学研究科の野口拓也准教授、関口雄斗博士、島田竜耶大学院生、松沢厚教授らの研究グループは、がん細胞の転移を強力に抑制するTKIsを発見し、そのメカニズムについて解析しました。がん細胞の転移を抑制するTKIsは、共通してシグナル伝達分子であるp62(注4)およびNBR1(注5)を骨格(コア)とした液滴(p62/NBR1液滴)の形成を促進していました。さらに、p62/NBR1液滴が形成されたがん細胞は運動能力が低下して遠隔転移することができなくなりました。一方、p62/NBR1液滴の形成を阻害するとTKIsによる転移抑制作用が消失したことから、がん細胞の転移におけるp62/NBR1液滴の重要性が示されました。本研究はp62/NBR1液滴を介した新規がん転移抑制メカニズムを発見した成果であり、TKIs既存薬を転移抑制剤として再開発するなど、画期的な転移抑制剤の開発やがん転移阻止戦略につながることが期待されます。

 本研究の成果は、2023年10月18日に米国アカデミー紀要に掲載されました。

図1. TKIsによるがん細胞の転移抑制機構
イレッサ、グリベック、タグリッソ、タイケルブなどのTKIsは、リソソームストレスによるp62とNBR1の蓄積を介してp62とNBR1の液−液相分離を引き起こし、p62/NBR1液滴の形成を促進する。p62/NBR1液滴には、細胞運動を促進するタンパク質Rac1とその分解酵素cIAP1が集積し、cIAP1によるRac1の分解(プロテアソーム分解)が促進される。その結果、細胞運動能が低下し、がん細胞の浸潤および転移が抑制される。


【用語解説】

注1. 抗腫瘍チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs: tyrosine kinase inhibitors)
がんの発症・進展に関与するチロシンキナーゼを標的とした分子標的治療薬の総称。

注2. 液滴
細胞内で液−液相分離によって形成されるタンパク質凝集体。この液滴中には様々なエフェクタータンパク質が含まれており、液滴はその分子機能を効率的に発揮するための『膜のないオルガネラ』であると考えられている。液滴は、タンパク質分解、代謝、プログラム細胞死など多様な細胞内シグナル伝達機構を制御することが報告されている。

注3. 分子標的治療薬
病気の原因となっている特定の分子に対してのみ作用するように設計された治療薬。

注4. p62(SQSTM1/p62)
細胞内のストレスによって発現が上昇し、凝集体を形成することが知られているアダプタータンパク質の一つ。凝集体中で様々な分子との相互作用し、シグナル伝達、オートファジーの受容体として働く多機能タンパク質。

注5. NBR1 (neighbor of BRCA1 gene 1)
p62と類似した構造を持つアダプタータンパク質。p62と同様に液滴を形成し、様々な分子との相互作用することでシグナルの調節因子として機能する。その働きは、p62と相補的であることが知られている。NBR1の発現量もまた、リソソームの機能によって制御されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 松沢厚
TEL: 022-795-6827
E-mail: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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