本文へ
ここから本文です

父親の加齢で精子の質が変化する 加齢マウス精子のマイクロRNA変化と次世代の神経発達障害リスク

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科発生発達神経科学分野 教授 大隅典子
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • マウスにおいて、父親の加齢によって精子のマイクロRNA(注1)のプロファイル(注2)が変化することを示しました。
  • 加齢で変化した精子のマイクロRNAをバイオインフォマティクス解析(3)し、その変化が神経発達障害(4)に関連する遺伝子の働きを制御しうる可能性を見出しました。
  • 加齢による精子のエピジェネティックな変化(5)が、次世代において神経発達障害を発症するリスクに関してさらなる知見が得られました。

【概要】

父親の高齢化により、子どもの神経発達障害の発症リスクが増加することが、疫学調査に基づいて繰り返し報告されています。

東北大学大学院医学系研究科・発生発達神経科学分野の大隅典子教授らの研究グループは、これまでマウスを用いて、精子形成におけるヒストン修飾(6)や精子DNAのメチル化(7)等のエピジェネティック因子が加齢により変化することを報告してきました。今回、精子におけるマイクロRNAを網羅的に解析し、加齢による精子のプロファイル変化を明らかにしました。さらに、それらの変化が神経発達障害に関連する遺伝子の制御に関わる可能性を見出しました。変化したマイクロRNAには受精卵へ移行すると報告されているものも含まれており、父親の加齢による影響が子どもにも影響を与える可能性が示唆されました。

>マウスをモデルとした本研究の結果は、加齢精子に含まれるマイクロRNAが子どもの神経発達障害の発症リスクに影響を与える可能性を示すもので、神経発達障害のメカニズム解明ならびにリスク診断や予防法の開発につながる成果です。

本研究成果は、2023年12月7日午前10時(ロンドン時間、日本時間12月7日午後7時)科学誌Scientific Reportsの特集Epigenetic Inheritance(エピジェネティックな次世代継承)として掲載されました。

図1. 精子に含まれるマイクロRNAの種類を月齢で比較したベン図。見られた447個のマイクロRNAのうち共通するのは約半数の210個で、他は加齢により変化する

【用語解説】

注1. マイクロRNA:細胞内に存在する20塩基程度の小さな核酸で、対応する配列をもつメッセンジャーRNAに結合することによって遺伝子を制御することが知られている。

注2. プロファイル:網羅的な解析によって得られる情報の全体像。本研究ではマイクロRNAの種類や量の違いの総体を意味する。

注3. バイオインフォマティクス解析:生命科学研究においてビッグデータをもとに行う情報科学的な解析手法を指す。

注4. 神経発達障害:神経系の発達異常から生じる、社交スキルや学習、認知機能などの脳機能障害である。その影響は生涯に渡って持続し、社会生活に支障が出るとされる。自閉症スペクトラム障害の他、学習障害、ADHDなどがある。詳しいメカニズムは未だわかっておらず、根本的な治療法や予防法も見出されていない。

注5. エピジェネティックな変化:遺伝子の塩基配列の変化ではなく、遺伝子の"上書き"としての化学的な変化により、遺伝子の"働き方"が変化する。具体的には、DNAメチル化(注7)、ヒストン修飾(注6)およびマイクロRNA(注1)がエピジェネティックな変化の実体である。

注6. ヒストン修飾:DNAを巻き取り収納するタンパク質であるヒストンは、メチル化、アセチル化などの化学修飾を受ける。これにより遺伝子の働きに変化が生じることから、注目を集めている。

注7. DNAのメチル化:DNAの塩基がメチル基の付加を受ける化学修飾で、この修飾を受けた遺伝子は働きが弱くなることが多い。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野
教授 大隅 典子
TEL: 022-717-8201
Email: osumi*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ