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超高密度天体を支える相対論的クォーク物質 双対模型によるクォーク・ハドロン・クロスオーバーの記述

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院理学研究科物理学専攻
准教授 古城 徹(こじょう とおる)
東北大学研究者紹介

【発表のポイント】

  • 宇宙最高の物質密度を誇る天体として中性子星がありますが、近年の観測によれば中性子星内部にクォーク(注1)物質が存在すると予想されています
  • 近年の中性子星観測で示唆される「圧縮に伴う物質の激しい硬化」(注2)をクォークに対するパウリ原理(注3)、相対論的な運動エネルギーという基本的な2つの原理に基づき説明しました。
  • 双対模型はこれまでのハドロンに関する物理学と中性子星内部の高密度物質に関する知見をつなぐ記述であり、様々な学際的展開が期待されます。

【概要】

多数の原子核を含む系を圧縮していくと、多数の陽子・中性子を含む核物質になり、さらに圧縮すれば最終的にクォーク物質ができると予想されています。これらの超高密度物質は地上の実験室では実現不可能ですが、宇宙には中性子星という、わずか半径10kmの星に地球の30万倍の質量が詰まっている超高密度天体が存在します。

近年劇的に進展した中性子星観測によれば、従来の予想に反して、核物質からクォーク物質へと変化するにつれ物質が急激に『硬く』なっているようです。この謎を解くべく本研究では核物質からクォーク物質まで統一的に記述する理論を構築し、物質の急激な硬化の機構を説明しました。鍵となるのは、パウリの排他律という量子論的効果とクォークの相対論的運動です。前者はクォーク物質への変化を駆動し、それを通じてクォークの相対論的圧力が開放され、物質を硬くし、中性子星が重力崩壊するのを防ぐのです。

本研究で導入した理論は、今後予定されている重力波観測などの天体観測にとって重要なだけではなく、J-PARCで行われている原子核物理の実験に新しい動機を与えると期待されます。

本研究成果は2024年3月11日(米国東部時間)に米国物理学会が発行するPhysical Review Letters(電子版)に掲載されました。

図1. バリオン密度を上げるにつれて原子核、核物質、クロスオーバー、クォーク物質へと変化していく様子。

【用語解説】

注1. クォーク:クォークは、原子核や核子(陽子・中性子)は構成する素粒子であり、3種類の『色』電荷により区別されます。『白色』電荷を持つ複合クォーク粒子(ハドロン)のみが実験の最終状態として観測可能です。しかしハドロンが相互に重なり合うような超高密度物質においては、クォークが開放されクォーク物質を作ると考えられています。

注2. 圧縮に伴う物質の激しい硬化:物質を圧縮すると内部のエネルギー密度と圧力の両方が大きくなります。硬い物質では、圧力の上昇の割合が大きく、なかなか圧縮できません。

注3. パウリ原理、またはパウリの排他律:素粒子はスピンと呼ばれる各々固有の角運動量を持っています。陽子・中性子、電子、クォークなどの粒子はスピン 1/2 を持ち、フェルミオンと呼ばれます。2 つの同種類のフェルミ粒子は同じ量子状態をとることができません。これをパウリの排他律と呼びます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
准教授 古城 徹(こじょう とおる)
TEL: 022-795-5582
Email: toru.kojo.b1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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