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緊急時における造血幹細胞の代謝調節を解明―血液細胞システムの緊急再生には解糖系酵素が働いている―

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院医学系研究科 教授・田久保 圭誉

【発表のポイント】

  • 新規に開発した単一細胞ATP測定技術により、ストレス造血(注1)時の造血幹細胞(注2)ではミトコンドリアではなく解糖系(注3)によるエネルギー産生が活性化することがわかりました。
  • ストレス造血時の造血幹細胞における解糖系の活性化には、解糖系関連酵素PFKFB3の修飾が必要で、造血幹細胞の増殖を促進していました。
  • 本研究によってストレス造血時のメカニズムの一端が明らかとなったことで、より安全な造血幹細胞移植技術の開発や、抗がん剤投与後の血球回復の治療法開発への期待がもてます。

【概要】

造血幹細胞は、生涯にわたって各種の血液細胞を産生する細胞です。感染症や出血、抗がん剤治療などで血液細胞の需要が急増すると、造血幹細胞は速やかに静止期から離脱し、細胞分裂を行って血液細胞システムを再生します。こうしたストレス造血時において、造血幹細胞がそのエネルギー需要をどのように賄っているのかは不明でした。
 今回、東北大学大学院医学系研究科と国立国際医療研究センター研究所の研究グループは、京都大学大学院医学系研究科などと共同で、代謝分子の細胞内での使われ方を明らかにする同位体トレーシングと数理モデリングにより、高い時間解像度で迅速に造血幹細胞の代謝動態を計測することに成功しました。これらの技術を利用することで、ストレス造血時の造血幹細胞のエネルギー需要の増大に対しては、PFKFB3の活性の調節が重要であることを見出しました。本研究によってストレス造血時のメカニズムの一端が明らかとなったことで、より安全な造血幹細胞移植技術の開発や、抗がん剤投与後の血球回復の治療法開発への展開が期待されます。
 本研究成果は、2024年4月4日付で学術誌eLifeに掲載されました。

図1. 定常造血とストレス造血における従来の学説
定常造血では解糖系優位の代謝を利用して造血幹細胞が静止期に維持されながら、ゆっくりとバランスよく分化血球を産生する一方、ストレス造血では旺盛に細胞分裂を繰り返しそのエネルギー源は活性化したミトコンドリアにあると考えられていた。

【用語解説】

注1.ストレス造血:出血や感染症、抗がん剤投与や放射線照射で血液細胞が減少したり需要が増大したりした際に、未分化な造血細胞が活発に分裂して不足した細胞を補うこと。

注2.造血幹細胞: 哺乳動物の成体では骨髄に存在している数少ない細胞で、細胞分裂することで生涯にわたり血液を供給している。

注3.解糖系:ブドウ糖を細胞内に取り込み、無酸素でピルビン酸・乳酸に分解することでエネルギーを得る過程。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
教授 田久保 圭誉(たくぼ けいよ)
TEL: 022-717-8150
Email: keiyo.takubo.e5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
E-mail: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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