平成22年4月東北大学入学式 総長式辞
本日、ここに平成22年度入学式を挙行するに当たり、新入生諸君ならびに今日の日に至るまで諸君の勉学を支えられたご家族の方々に対し、東北大学を代表いたしまして、心よりご入学のお祝いを申し上げます。
今日、東北大学の門をくぐられる方は、学部生2,545名、大学院生2,697名、合計5,242名の多きにのぼり、未来の可能性に溢れる数多くの俊英を世界中からお迎えすることができたことは、私どもの大きな喜びとするところであります。
東北大学は、明治40年(1907年)に、日本で三番目の帝国大学として建学された歴史ある総合大学です。常に時代のフロントを切り拓いてきた本学は、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神をもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献してきました。その歴史は、東北大学に関わる人々のたゆまぬ挑戦の歴史でもあります。1922年に東北大学を訪れた、かのアルバート・アインシュタイン博士は、「仙台は学術研究に最も向いた都市であり、恐るべき競争相手は東北大学である」と語ったと言われています。
そして現在、東北大学は、日本の大学という存在を超え「世界リーディング・ユニバーシティ」への飛躍を目指した「井上プラン(東北大学アクションプラン)」を打ち出して、様々な取組を展開しています。
教育面においては、海外インターンシップ制度の拡充やスチューデントアドバイザー制度の導入を含めて、新たな教養教育の構築と実施体制の強化を進めています。国際化拠点整備事業(グローバル30)に採択され、このプログラムを契機に、本学の留学生を10年間で約1300人から3000人に倍増し、講義すべてを英語で行う教育コースの準備をしています。世界最高水準の研究・教育拠点にふさわしいキャンパス環境も着実に整えています。これらの取組の成果として、高等学校教員からは最も高い評価を受けています。
研究面においては、世界トップレベル国際研究拠点形成プログラムとして国際高等原子分子材料研究拠点構想が採択され、「原子分子材料科学高等研究機構」を発足させました。グローバルCOEの12件の採択に加え、最先端研究開発支援プログラムに2件の課題が採択されました。21世紀の学術をリードする研究者を育成する「国際高等研究教育機構」などユニークな教育研究環境も整備しています。このような研究推進体制と世界トップレベルの研究水準の実現を通じて、研究大学としての国際的な地位を確立するとともに、学生の研究能力の向上にも資することができると考えています。
目を世界に転じますと、21世紀のグローバリゼーションと呼ばれる社会は、環境問題、エネルギー問題、人口問題、食糧問題など地球規模の問題に直面し、多くの国々、地域の利害が絡んで極めて複雑な様相を呈しています。これらの根源的な要因の一つは、科学技術にあります。その進歩は加速度的で、人類に利便性を与えていますが、同時に自然環境の破壊や資源の枯渇を現実の問題として生じさせています。この大きな矛盾が今、有限の地球の自然環境に対する人類社会の根本的変化を要求しています。人類社会はグローバル社会を成立させて地球を持続可能にする、あらゆるシステムのイノベーションが不可欠な危機的状態にあるということです。
私も低炭素社会の実現に向けて、安価でかつ長期的に安定供給ができる元素による新材料開発に努めていますが、是非諸君には不撓不屈な挑戦の精神を持って地球社会の問題に取り組む国際社会のリーダーに育っていただきたい。真の世界リーディング・ユニバーシティの確立は、創造性豊かな若い諸君の双肩にかかっていると言っても過言ではありません。「Challenge(挑戦)」、「Creation(創造) 」、「Innovation(革新) 」という3つのキーワードを基軸に行動する研究マインドをもって、諸君が教養を高め、勉学・研究にいそしみ、学問を極めていくことを期待しています。
さて、諸君は今日から新しい一歩を踏み出すことになります。そこで東北大学の一員として、折にふれて思い出していただきたい、2つのことをお話しておきます。
第一は、「学問に対する心構え」です。いよいよ諸君の時代を迎えるのに、「地球市民として自分には何ができるのか、何をすべきなのか」を真剣に自分に問い掛けてください。諸君には己の興味の赴くところ、自由に学問を修め、自分の未来を選択できる権利があります。諸君一人ひとりがまずしっかりとした将来の夢を見つけ、大きな志を立てて、その実現に向けた一歩を踏み出すのです。東北大学は、諸君に自立した人間としての気概をもって勉強することを求めます。辛抱強く自分の学問を追い続けることを求めます。諸君の思い描く夢は、なかなか形にならないかもしれません。でもいろんな方法でトライをして、諦めずに小さな一歩を何度も踏み出し続ければ、やがて明日への扉を開けていくものと信じます。東北大学は、そんな諸君に必ずや応えてくれる大学です。
「縄鋸も木断ち、水滴も石穿つ。」中国古来から伝わる名言で洪自誠が「菜根譚」に引用した言葉です。縄の摩擦でも時間をかければ木を切ることができる。わずかな水滴でも同じ所に落ち続ければ石に穴を開ける。小さく見えることでも継続すれば成果を挙げることができるものだと、説いています。続けるということは中々難しいからこそ価値があります。地道な努力を怠ったり、そうすることが恰好悪いというような感情は捨ててください。
「学問に王道なし」(There is no royal road to learning) と言われ、いつの時代でも、勉強にも、研究にも、スポーツにも通じる事実です。
「結局は、細かいことを積み重ねることでしか頂上へはいけない。それ以外に方法はないということですね。」大リーグで活躍するイチロー選手がジョージ・シズラーのシーズン安打世界記録を塗り替えたときの言葉ですが、一度に成果を挙げることは誰にもできません。小さな努力を積み重ねることが、ゴールへの唯一の道なのです。また、ゴールに辿り着いたからといってそこで満足してしまっては、そこからの成長はありません。成功したら冷静に成功のプロセスを検証し、また新たな挑戦を始めるのです。
第二は、「学問におけるパートナーの重要性」です。人生は出会いによって決まります。出会いによって進化します。人間が人間としての力を高め、伸ばしていくためには、「良き師、良き友、良き学び舎」との出会いが大切です。諸君はこの東北大学に入学し、学問に専念する覚悟をもってスタートラインに立ちました。
まず、良き指導者を選んでください。良き指導者に巡り会うには、誰が自分にとって良き指導者であるかを判断する力がなければなりません。それには人との出会いを大切にする心掛けと本当に求める努力が必要です。本学は様々な分野で活躍する教育と研究に高い理想と情熱をもった教員を多数擁しています。諸君の優れた能力を引き出してくれる良き指導者を見つけて、その良さをすべて吸収してください。
次に、良き学友との友情を深めてください。大学は教育研究の場であると同時に、異文化を体験する場でもあります。「良き友人を得る唯一の方法は、まず自分が人の良き友人になることである。」これは19世紀アメリカの詩人・思想家ラルフ・エマーソンの言葉です。切磋琢磨して、生涯の友となる良き学友と親しんでくれることを願っています。
一つここで付け加えてお話ししておきたいのは、本学の「同窓力」についてであります。多彩な場で活躍する同窓生は大学の大きな支えです。今年はイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが進化論を説明した「種の起源」の初版本が寄贈され、諸君に創造的な歴史的果実に直接触れる機会が用意されるなど、同窓生の支援を大いに嬉しく、また誇らしく思います。
諸君は本日から全学同窓会である東北大学萩友会の一員でもあります。萩友会は本学の学生と同窓生とをつなぐのはもちろん、経済社会とをつなぐ太い絆ともいうべき機能を担っています。諸君には、萩友会という組織の存在を知っていただき、今後大いに活用することをお勧めしておきたいと思います。
言葉は、時には私たちが生きていくための貴重なアドバイスを与えてくれることもあります。
第一は、「学問に王道なし」。小さな努力を積み重ねていくこと。
第二は、良き師と巡り会い、良き学友と親しむこと。
これが本日ここに入学式を迎えた諸君に対する、私からのお祝いのメッセージです。
本日の入学式には多くの留学生諸君がいますので、ここで簡単に英語で歓迎の言葉を述べたいと思います。
Now, I would like to switch my speech from Japanese to English, because we have many international students. So I would like to talk directly to them in English.
It is a great pleasure and honor for Tohoku University to hold this entrance ceremony.
I, as President of Tohoku University, would like to express my heart felt welcome to you all.
To seek admission to Tohoku University, every one of you must have an important decision both mentally and economically. I would like to express my respect and gratitude for your choice of Tohoku University as a place for meeting new people and gaining new knowledge.
Tohoku University was founded in 1907 as the third imperial university of Japan. Our philosophy has always been to put the "Research First" principle and "Open door" policy since its foundation. The results of research have proven useful in solving many problems facing society, and by educating leaders we have contributed to establishing a just and peaceful society.
Although I have little time to speak about detail of history of Tohoku University, I hope you can understand that Tohoku University is one of the leading universities in your field and that you can enjoy your study here.
Finally, My congratulation once again, and I wish you good success and fruitful results in Tohoku University and good experiences in Japan.
Thank you very much.
私たち東北大学は、地球規模で思索と実践のできるグローバルな大学として、「世界リーディング・ユニバーシティ」の道を歩んでいきます。諸君一人ひとりが東北大学に誇りを持ち、それぞれの夢に向かって挑戦を続け、日本の未来、そして人類社会の未来を担うという使命感を持つリーダーに育っていただきたい。そういう強い期待を表明して、私の式辞といたします。
平成22年4月6日 東北大学総長 井上 明久
(於:仙台市体育館)