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里見進総長

皆様あけましておめでとうございます。年の初めに当たり一言ご挨拶を申し上げます。

早いもので一昨年3月11日に起こった東日本大震災から約1年10か月が過ぎようとしています。仙台市に住んでおりますと震災の爪痕をほとんど感じられなくなりましたが、沿岸部の津波の被災地では瓦礫の処理もいまだに30%程度にとどまっているとのことで、復興には程遠い状態であります。東北大学は被災地の中心にあった総合大学として東北の復興のみならず、震災前から停滞感のあった我が国全体の再生に力を発揮すべき使命があります。

昨年4月に新しい総長として就任する際に6年間の任期中の目標として「東北の復興・日本再生の先導」、「ワールドクラスへの飛躍」の2つを掲げました。

前者に関しては、震災当初に設置された災害復興新生研究機構のもとに8つのプロジェクトと100を超えるプランを策定し、関係機関との連携を図りつつその具体化に取り組んでおります。昨年の主な成果を挙げますと、4月には災害科学国際研究所が設置されました。本学にとっては70年ぶりになる本格的な研究所の新設であり、従来の災害研究機関とは異なり文理融合型の組織としてスタートしております。東北メディカルメガバンク事業では、祖父母の代から孫の代まで、垂直の遺伝子情報を集積する試みが始まりました。遺伝子情報と医療情報を連結して分析することで、新規の診断法や治療法、創薬につながることが期待されます。同時に医学系研究科や大学病院には医療関係者を再教育するシステムや地域医療を担う人材を育成する組織も立ち上がっております。また、環境・エネルギー問題を解決するためにいくつかの大学との共同研究が進んでいますし、情報・通信に関しては情報通信研究機構(NICT)と協力し耐災害ICT 研究センターを設立し、今回の震災で明らかになった課題を解決することになっております。マリンサイエンスプロジェクトでは三陸の豊かな海を取り戻すための調査研究を、海洋科学研究開発機構(JAMSTEC)や東京大学と共同で行うことになっておりますし、JAMSTECとはより包括的な協定を締結し海洋全般の問題を解決することになりました。今回大きな問題となっている放射能の汚染に関しては迅速な判定法や効果的な除染の方法の開発、体内蓄積の調査などが開始されています。地域特有の経済や社会の課題を掘り起こす調査や、起業を担う人材の育成も経済学研究科を中心に実施されております。また、新キャンパス内のサイエンスパークには東京エレクトロンから寄贈される新しい研究施設の建設が始まり、新たな産学連携の試みがスタートしました。加えて100を超えて寄せられたプランのいくつかに対しては、本学の予算を処置することで計画が進行するように努めております。これらの研究はまだ緒に就いたばかりであり目に見える成果にはなっていませんが、近い将来に必ず本学発の新しい智を基にした文化や産業として社会に還元され、東北や我が国全体の復興・再生に寄与すると信じております。

ワールドクラスへの飛躍を達成するには教育や研究の面で大きな変革が必要になります。

世界で活躍する指導的な人材を育成するために、教養教育の改革は避けては通れない課題です。いま教育担当理事を中心に、東北大学としての理想的な教育の在り方を議論してもらっています。答申が得られた段階で、その実現に向かって着実に歩を進めたいと考えています。

総長に就任以降いろいろな国の大学を拝見する機会を得ました。そこで感じたことは、欧米の大学はともかくとして、中国(清華大学、南京大学、北京科技大学)、韓国(ソウル大学)、台湾(台湾大学)、ロシア(モスクワ大学)など、現在目覚ましく経済発展を遂げている国が教育・研究に国を上げて力を入れていることです。国家予算の投入は無論のこと、高額の寄付の受け入れや、多額の自己資金とその運用益を用いて、将来の社会変化を見越した組織の再編が急速に行われております。国際化への対応でもわが国が後れを取っていることを痛感しました。教育に関してやるべきことはたくさんありますが、中でも国際化は急がねばならない課題です。これまで行ってきた英語での教育やダブルディグリー等の資格付与の制度をさらに進め、海外から見て魅力ある大学に変わらねばなりません。幸い、本年中には新しい外国人宿舎が完成します。これらを有効に生かして海外からの学生や研究者の受け入れを増やすとともに、今年は海外へ出ていく学生や研究者の支援を強化していきたいと思います。

研究力の強化は大学のもう一つの大きな課題です。本学の世界での大学ランキングが徐々に下がっている現状を冷静に分析すると、研究力の相対的な低下が大きな要因になっていると思います。幸い大震災の後も競争的資金を獲得する力は落ちていませんから、本部の考えることは研究を支援する体制をいかに整備すべきかになります。研究がスムースに行えるように、雑務から解放する仕組みを作り研究者が研究に専念できる環境を作らなければなりません。また、本年は優秀な大学院生への奨学制度を拡充し、若手研究者への支援も強化していきたいと考えています。同時に研究成果を社会に還元する仕組みも整えたいと思います。

巳年は脱皮のイメージから復興・再生のシンボルと言われています。大震災後3年目を迎える本年が、東北の復興・日本の再生にとって大きな進展をもたらす年になることを願っております。

今年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

平成25年1月4日   東北大学総長   里 見   進   

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