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平成28年度東北大学入学式

東北大学へ入学した皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生2,520名、大学院生2,422名、合計4,942名の才気溢れる皆さんをお迎えすることができたことは、私どもの大きな喜びとするところであります。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を今日まで、献身的な愛情をもって励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様に対し心より祝意を表します。

皆さんが学ぶ権利を得たこの東北大学には、誇るべき強みや魅力が数多くあります。本日は、それらのいくつかを紹介するところから話を始めたいと思います。
 一つ目は、「歴史と伝統のある世界トップレベルの研究型大学である」ことです。
 東北大学は、江戸時代中期の元文元年(1736年)に仙台藩の藩校として創設された「明倫養賢堂」を前身とし、明治40年(1907年)に日本で3番目の帝国大学として創立しました。建学当初から本学は、時代のフロントランナーとして、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神をもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の持続的発展に貢献してきました。世界の賢人である魯迅は、この学都仙台の地で学び、かのアルバート・アインシュタイン博士は、『仙台は学術研究に最も向いた都市であり、恐るべき競争相手は東北大学である』と語ったと言われています。本学の研究成果は、33の文化勲章、52の文化功労者、19の日本学士院恩賜賞、90の日本学士院賞に裏付けられています。田中耕一氏のノーベル化学賞受賞、岩崎俊一氏と遠藤章氏の日本国際賞受賞もよくご存じのことかと思います。過日の報道によれば、国際的な専門学術誌への発表論文数においても、材料科学、物理、化学など多くの分野で世界のトップを争う位置にあります。
 このような歴史と伝統を持つ東北大学も、5年余前の東日本大震災では甚大な被害を受けました。しかし、そのような状況においても、東北大学では教職員・学生が一丸となり、「東北復興・日本新生の先導」を目指して、災害科学国際研究推進、地域医療再構築、環境エネルギーなど8つのプロジェクトと100を超える復興アクションを展開し、昨年開催された第3回国連防災世界会議でも数多くの研究成果を世界に向けて発信しています。
 二つ目は、「全国有数の規模を誇る総合大学である」ことです。
 東北大学は、10の学部と16の大学院研究科、3の専門職大学院、6の附置研究所に加え、多くの教育研究に携わる機構・センターと図書館・病院という陣容を誇り、それぞれが強みと特色を備えています。在籍している学生数は、学部と大学院を合わせると17,000名を超え、教員は約3,200名、事務系・技術系職員も約3,200名がいる全国有数の総合大学です。
 その東北大学のキャンパスは、我が国屈指の環境の中にあり、世界へ飛翔していく学び舎として理想的な条件を備えているものと、私たちは自負しています。「杜の都」、「学都仙台」とも呼ばれる知的存在感のある仙台の地に5つのキャンパスがあり、全国にも様々な実験施設や観測施設、フィールドセンターなどが所在しています。さらに海外にも、海外事務所やリエゾンオフィスを設置しています。特に最近では、東日本大震災後のキャンパスの復旧・整備が急ピッチで進み、四季の気配を色濃く映す杜の緑に包まれた環境と最先端の教室棟、研究棟、図書館などが機能的に調和するよう整備されました。昨年12月には地下鉄東西線が開通して本学のキャンパスに関連して3つの駅が設けられ、これまで以上に通学や学友との交流がし易いロケーションとなっています。このキャンパスを舞台に重ねられる学習と体験は、将来の夢をカタチにするためのかけがえのない土台となるはずです。
 三つ目は、「国際性の香り高いグローバルな大学である」ことです。
 東北大学は、100年余も前から世界に開かれたグローバルな大学として、常に新たな時代を切り拓いてきました。本学のキャンパスも小さな国際社会であり、日本各地はもとより、世界の90カ国以上の国・地域からの外国人留学生が学んでいます。
 そして現在、東北大学は、「東北大学グローバルビジョン」を打ち出して、日本の大学という存在を超え、ワールドクラスへの飛躍を目指して様々な取組を展開しています。とりわけ教育面においては、平成26年度に文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援(トップ型)」13大学に採択され、海外研鑽を中心にして語学やコミュニケーション力、国際教養力、行動力を鍛える「東北大学グローバルリーダー育成プログラム」(TGL)を実施しています。英語で学位を取得できる「フューチャー・グローバル・リーダーシップ・プログラム」(FGL)でも卒業生を輩出し、来年度からは留学生だけでなく日本人学生を対象としたコースも設置します。海外の有力大学との国際共同大学院プログラムは、昨年度のスピントロニクス分野を皮切りに、本年度は環境・地球科学分野でも開設し、データ科学分野などがそれらに続きます。そのほか、ノーベル賞受賞者クラスの卓越した研究者を招聘し、1ないし3カ月本学に滞在する中で、皆さんと自由闊達に議論する「知のフォーラム」という場を設けています。本学では、早い時期からの海外武者修行を奨励し、海外留学を支援する奨学金も準備しています。私も初めて海外に出た若い時代の経験を今でも忘れることはありません。皆さんには、是非、こうした修学環境を大いに使いこなしていただきたいと思います。

好むと好まざるとにかかわらず、私たちは、これまで以上に、急速かつ大規模に進むグローバル化の影響にさらされていくでしょう。具体的な予測は難しいものの、人類社会が直面する課題の解決を目指して知的な格闘を続けていかなければならないことだけは確かです。東北大学で学ぶ権利を得たということは、その知的な格闘のために自らを鍛える時間と場を皆さんは与えられたということだと思います。つまり、皆さんにとってこれから大切なことは、東北大学に入学したという「学歴」ではなく、本学で学ぶ権利を得たことをどのように活かして自分の中に知の拠点を作り上げていくかという「学習・学問暦」です。それはまさに皆さんの決心と行動にかかっています。そこで、私は東北大学総長として、また大学の先輩として、2つの期待を皆さんにお伝えしたいと思います。
 第一は、「この東北大学で学ぶということの意味を自分の中でしっかり考えていただきたい」ということです。
 先ほど「ワールドクラスへの飛躍を目指して」とお話をしました。ここでいう「ワールドクラス」とは、私たちこそが人類社会が直面する課題の解決に知的に関わるという自負を持つということに他なりません。そのために、本学の教職員には人類社会が直面する課題に果敢に挑戦すること、本学の学生には知的な能力に一層の磨きをかけることが求められます。皆さんが将来どのような道に進むにせよ、高い専門性の修得はもちろん重要ですが、本学では、自分の専門分野に閉じこもっていればいいという発想はありません。グローバル社会で生き抜くには、あらゆる課題に深い見識を示し、論理をしっかり組み立てる知的アスリートでなければならないと考えています。その課題に対処する総合知の基礎となるのがリベラルアーツであり、その訓練を支えるのが批判精神や論理性という思考力であり、その総合知の共有化を進めるのが世界でコミュニケーションをとれる英語力です。
 今、本学では、このリベラルアーツ、思考力、英語力の三つの知の力を確実に修得していくカリキュラムを用意しています。また、様々な分野でグローバルに活躍する教員が皆さんを待ち構えています。『玉(たま)琢(みが)かざれば器(うつわ)を成さず。』人類社会が直面する課題の解決に幾許かでも知的に関わるという気概を持って、この3つの知の力をより高度に追究してください。
 第二は、「安易な道を避け、険しい道を選ぶ勇気を持っていただきたい」ということです。
 『時には踏みならされた道を避けて、森の中に入りこむのがいい。今まで見たこともないものを発見できるに違いないからだ。』これは、世界初の実用的電話機の発明で知られるグラハム・ベルが残した言葉です。未来を切り拓くような発見・発明を成し遂げるには、人と同じことではなく、時には寄り道や冒険をすることが必要です。これまで蓄積してきた知識や慣例に従うことは一つの知性ですが、新しい展望を切り拓く上では何物も与えてくれません。ベルの言葉には、そのような意味が込められています。
 これから皆さんは、学習であれ、研究であれ、「踏みならされた易しい道」と「歩んだことのない険しい道」を選択する機会に遭遇するでしょう。その時、皆さんには「険しい道」をあえて選択されることを期待します。皆さんが次の時代の担い手であるからこそ、未知の大きな転換期にある「今」を感じながら、この人生において貴重なそして贅沢な時間を有効に活用して、未踏峰の山に挑戦する登山家のように「険しい道」に思いきり挑戦していただきたい。その「険しい道」とは、グラハム・ベルが『森の中に入り込む』と語った道です。その「険しい道」の選択は、自分の可能性を閉じ込めることなく、皆さんが皆さんなりに物事を根源にまで遡って考え抜き、世界に貢献をしようとする試みを意味します。やや誇張した言い方をすれば、冒険心をもって「険しい道」を選択できない者には、未来を切り拓く資格はないと言っても過言ではありません。英語で"not yet"という言葉があるように、更なる高みを目指す粘り強い努力こそが、いつか皆さんの可能性を信じられないほど開花させてくれるものと、私は信じます。

さて、本日の入学式にも、多くの海外からの新入生が出席しています。留学生の皆さんには、言葉や生活習慣に戸惑いがあるかもしれません。しかし、本学の学生、教職員、そしてこの仙台の市民は、皆さんを優しく受け入れ、価値観を共有したいと願っていることは間違いありません。本学で学ぶ決意をした志を忘れず、多くの友人と親しみ、本学で学んだ成果とともに、太い絆を育てていただきたいと願っています。ここでその方々のために短く英語で歓迎の言葉を申し上げます。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because we have many International Students here. So, I would like to talk directly to them in English.

First of all, as President of Tohoku University, I would like to welcome you and to extend my heartfelt congratulations.

To seek admission to Tohoku University, every one of you had to make an important decision both mentally and economically. I would like to express my respect and gratitude to you for choosing Tohoku University, a place where you will meet new people and gain new knowledge.

Tohoku University was founded in 1907 as the third National University of Japan. Our philosophy has been to put "Research First" and maintain an "Open door" policy since our university's foundation. The results of our research have proven useful in solving many problems facing society, and by educating leaders we have contributed to establishing a just and peaceful society.

Although I have little time to speak in detail of the history of Tohoku University, I hope you can understand that Tohoku University is one of the leading Universities in your field and I believe you will enjoy studying here.

Finally, I must make a few concluding remarks in Japanese, but first let me welcome you to Tohoku University. I am sure you will have many good experiences in Japan.

最後になりますが、本日入学された皆さんが、良き師、良き友に恵まれ、健康ではつらつとして、東北大学の生活を楽しんでくださることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。

平成28年4月6日


東北大学総長

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(於:仙台市体育館)

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