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平成28年9月東北大学学位記授与式

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された45名の皆さん、修士の学位を授与された126名の皆さん、専門職の学位を授与された8名の皆さん、そして博士の学位を授与された141名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶び申し上げます。

私どもに耐え難い別離と悲しみをもたらした東日本大震災の発生から、早いもので5年半余の歳月が流れました。振り返れば、皆さんの中には大震災に直面して衝撃を受け、あるいはその復旧・復興の途上で奮励努力を求められた方、プレハブなど不自由な施設で学習や研究に励まれた方も沢山いると思います。そのような厳しい環境の中でも、皆さんが新たな学位取得者として東北大学の歴史に足跡を残されたことは、本学にとりましても大きな喜びです。
 しかし、これから皆さんがどのような道を進まれるにしても、皆さんが背負っていかなければならない課題というものは並大抵のものではありません。21世紀、とりわけ「3.11以後」の世界を生き抜いていく上で、真理・現実の前で謙虚であること、一人ひとりの人間を大切にして「共に」生きること、そして世界における自分の立ち位置を知り、自らの使命を自覚することがいよいよ重要になってきます。その培った専門的知識を実践の場で駆使し、新しい知的地平を切り拓くべく、それぞれに勇猛邁進されることを祈ってやみません。

さて、「3.11以後の世界を生き抜いていく上で」と申し上げましたが、大震災以後、科学技術、あるいは専門家に対する社会的信頼感が急落しました。また、原発事故のように専門家が専門家特有の言葉やシンボルを駆使して難しい議論を繰り返していた事態は、一般の人々の求めている問題にどの程度適切に応えているのかという、専門家と一般の人々という双方の認識のギャップを浮き彫りにしました。ここには、今後、専門家と専門的知識の在り方について、専門家と一般の人々の双方が学ぶべき大きな課題が横たわっています。
 この点から、私は、この新たな旅立ちの記念すべき日に、皆さんに3つの課題を提起したいと思います。

その第一は、専門家の社会的責任として、自らの専門的知識について「発信する力」を持つ専門家であって欲しいということです。
 皆さんはそれぞれに専門的知識と格闘し、少なくともある特定領域については自信をもって語れるだけのものを修得しました。そうした専門的知識は一定の範囲で合理性を体現するものであり、皆さん自身と一体となった大切な礎であることは確かです。しかし同時に、そうした専門的知識の合理性のみで突っ走ることができる時代ではなく、むしろ現代社会の中でそうした専門的知識が一般の人々にとってどのような意味を持っているか、厳しく問われる時代に私たちは生きています。自分の専門的知識がどれだけ敬意をもって社会で受容されるのか、自ら問い掛けてください。この問い掛けは、専門的知識を基礎にした全ての活動において決定的な意味を持つわけではありませんが、他者を相手にその専門的知識を活かそうとする場合には、特に重要な意味を持つ課題となります。そして、この課題に取り組むときに一番大きな障壁となるのが、専門家と非専門家との知識の落差です。
 様々な専門的知識は、自然現象や社会現象を分析しそれらを支配する理論や法則の解明に基づく産物ですが、その先の問題、つまりその知識が社会で受容されるものなのかという問題になると、その知識が社会生活に与える影響が広範で大きいほど、素人は無知を装って専門家に隷属するか、そうでなければ専門家による社会への適用に対してブレーキをかけることになります。そのような事態を回避するためにも、専門家と非専門家との間の垣根を取り払う努力が不可避となります。社会における専門的知識の正当な地位を確立し、社会をより透明性の高い合理的なものとしていくために、皆さんには専門家として、自らの専門的知識の意味を真摯に考え、発信する役割を果たして欲しいと思います。

その第二は、この専門的知識の「発信」が、受け手の「知性」に届くものであって欲しいということです。
 専門的知識の「発信」がなされても、専門分化を深めた事柄を素人がそのまま理解することは、容易ではありません。そのため、何よりもわかりやすさが求められます。新聞やテレビなどのメディアも、それに応えて専門的な事柄を単純化し、賛成か反対かの両極に課題を争点化する傾向が見られます。しかしその結果、現代社会を見渡すと、政治的選択から地球社会の未来予測まで、全ての問題を「一瞬の好きか嫌いかで判断」すること、「知性」(物事を知り、覚え、考え、判断する能力)ではなく、「感性」(物事を感覚的・感情的に感じとる能力)で捉えるという、反知性主義が強まっているように思えてなりません。このような考え方は、一時的な心理的解決をもたらすものであっても、抜本的な解決にはならず、社会全体から見ると極めて憂慮すべきことです。
 最初に述べたように「発信する力」は不可欠であり、同時に言説への信頼を獲得するには、発信する内容、「質」が大切なことも当然であります。しかしそれだけでは不十分で、言いたいことの中身を的確かつ印象深く伝える表現力を駆使した伝える力こそが、他者の知性を動かす大きな原動力になります。この力の有用性を西洋社会では古き時代から認識しており、学生が修めるべき教養、いわゆる中世西洋の大学における自由七科(seven liberal arts)のうち、文法、修辞学、論理学の三科(trivium)を、共通の知識基盤として取り入れています。つまり論理的に理性に訴える、「教養としての発信力」を持たせるように努めてきたといえます。一方、これまでの我が国の教育課程では、考えを整理し表現する力を重要視しなかったがゆえに、結果として国際社会で活躍する人材が育たなかったのではないかという反省があり、昨今の教育改革の契機ともなっています。理性的な判断で物事に対処する社会を築くためにも、受け手の「知性」に届く発信力を身に着けていくのが皆さんの務めだと考えます。

その第三は、「自分の頭脳で徹底的に考え抜く」素人でもあって欲しいということです。
 皆さんは、ある領域の専門家であると共に、社会の一員として非専門家でもあります。現代社会では、エネルギー、情報、金融、社会保障など社会を支えるシステムが大規模となり、複雑化・専門化が進んでいます。もとより専門家だけでは社会システムの存続も、健全なバランスの維持もできません。そして専門的知識が十分でない非専門家がこれらの社会システムをチェックするには、多大な努力が必要です。その結果、どうしても理解するのが大変な割には知り得る価値が少ないのではないかという「合理的無知」の考えに陥り、理解することを放置することになりがちです。とりわけスピード重視の時代には、社会システムの前提を確認する作業を怠りがちになります。次代を担う皆さんには、専門家として、専門的知識の「発信」という営みと共に、社会が健全な状態を維持するための的確な知恵と道義性を備えた非専門家としても、専門外のことでも安住することなく、自ら徹底的に考え、建設的に批判し、選択する態度が期待されています。そのためには、古代ギリシャの哲学者、ソクラテスの唱える「無知の知」の考え方が重要です。「私たちにはまだまだ知らないことが多すぎる」という自己認識、つまり、知への謙虚さを持ち続けて「自分の頭脳で徹底的に考え抜く」という営みをこれからも続けてください。

日本、そして世界を次の時代に飛躍させていくために、皆さん一人ひとりがこの現代社会をより良く理解し、その専門的知識に加えて、自ら「行動すること」、「受け手の知性に届ける発信をすること」、そして「自分の頭脳で徹底的に考え抜くこと」を一体として日々精進されることを切に願うものであります。

皆さんは、東北大学から旅立っても、東北大学のコミュニティの一員です。皆さんは、全学同窓会である東北大学萩友会の一員でもあります。大学は、ずっとお互いに関わり続けていける関係性を築きたいと考えて、毎年秋にはホームカミングデーを開催しています。皆さんが折に触れ母校を訪ね、この緑豊かなキャンパスで培った師弟の絆と学友との友情を更に深めてくださることを願っています。

東北大学は、世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日は、34か国、188名の外国人留学生の皆さんが学位を取得しました。この高い国際性は、東北大学がワールドクラスへ飛躍する研究中心大学として活動していることの証であると考えます。留学生の皆さんには、日本を、そしてこの東北大学を第二のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、最後に英語により送別の言葉を述べ、私からのお祝いの言葉としたいと思います。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because many of you are international students. I would like to talk directly to you in English.

It is my great pleasure to hold this 2016 Autumn Commencement Ceremony of Tohoku University together with the Academic and Executive Staff Members. I am delighted to express my sincere congratulations on the successful completion of your courses in the Undergraduate and Graduate schools.

Many intractable problems including the global environment, disaster risk, energy, low birth rates, and financial and employment issues challenge the world today. In an effort to negotiate solutions to such problems, the world is struggling to attain new growth through innovation in all areas.

Against this background, you are expected to make use of your skills globally. I also ask you to aim to become global-leaders in new fields.

In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.

The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.

To the graduates: I hope that you will continue to foster the alumni networks you have established at Tohoku University, further enhance the skills and knowledge you have acquired here, and venture decisively into addressing policy challenges around the world.

Finally, I sincerely hope that today will be the first step toward a successful future for each one of you.

本日は誠におめでとうございます。

平成28年9月26日


東北大学総長

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(於:百周年記念会館 川内萩ホール)

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