本文へ
ここから本文です
平成29年度東北大学入学式

東北大学へ入学した皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生2,509名、大学院生2,493名、合計5,002名の才気溢れる皆さんをお迎えすることができたことは、私どもの大きな喜びとするところであります。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を今日まで、献身的な愛情をもって励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様に対し心より祝意を表します。

東北大学は、江戸時代中期の1736年に仙台藩の藩校として設置された「明倫養賢堂」を前身とし、明治40年(1907年)に、日本で3番目の帝国大学として建学された歴史ある総合大学です。建学当初から本学は、時代のフロントランナーとして、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神をもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の持続的発展に貢献してきました。
 東北大学は、10の学部と16の大学院研究科、3の専門職大学院、6の附置研究所に加え、多くの教育研究に携わる機構・センターと図書館・病院という陣容を誇り、国際的な専門学術誌への発表論文数においては、材料科学・物理・化学など多くの分野で世界のトップを争う位置にあります。世界の賢人である魯迅は、この学都仙台の地で学び、かのアルバート・アインシュタイン博士は、「仙台は学術研究に最も向いた都市であり、恐るべき競争相手は東北大学である」と語ったと言われています。
 その東北大学のキャンパスは、我が国屈指の環境の中にあり、世界へ飛翔していく学び舎として理想的な条件を備えているものと、私たちは自負しています。「杜の都」とも呼ばれる仙台の地に4つの、緑に囲まれた広大なキャンパスがあり、全国にも様々な実験施設やフィールドセンターなどが所在しています。最近では、地下鉄東西線の開通で本学のキャンパスに関連して4つの駅が設けられ、この4月には青葉山新キャンパスに農学系総合研究棟や青葉山コモンズが竣工し、これまで以上に通学や学友との交流がし易いロケーションとなっています。どうかこのキャンパスでの学生生活を存分に楽しんでください。
 このような歴史と伝統を持つ東北大学も、6年余前の東日本大震災では甚大な被害を受けました。しかし、そのような状況においても、本学では教職員・学生が一丸となり、「東北復興・日本新生の先導」を目指して、災害科学国際研究推進、地域医療再構築、東北マリンサイエンスなど8つのプロジェクトと100を超える復興アクションを展開し、第3回国連防災世界会議でも数多くの研究成果を世界に向けて発信しています。一方、目を東北全体に転じますと、復興への道は、未だ途上に過ぎません。皆さんにも、この「3.11」の胸の塞がれる思いを風化させることなく、被災地の苦難を我がこととし、自分に一体何ができるかを考え、あるいは行動することを希望します。

さて、俗に「初心忘るべからず」ということが良く言われます。私たちはしばしば容易にその初心を忘れ、その時々に安住しやすい存在だからです。学生生活は、人生の中で最も自由を謳歌できる期間であり、それだけに皆さんが卒業あるいは修了時にどのように成長しているかは、皆さん自身の決意と行動にかかっています。

私は今日ここで、皆さんが新しい一歩を踏み出すにあたり、その初心が叶うことを願いつつ、東北大学の一員として、特に強く期待したい2つのことをお話ししておきます。
 第1は、「本質を見極める探究心と教養」です。
 新入生の皆さんが、これまでの厳しい受験勉強を通じて、一定の知的能力を備えていることは当然の前提です。その上で、皆さんにはそうした知的能力を学問の世界で徹底的に鍛え上げてほしいと思います。
 大学は、学問を育む場であると同時に、若者を育成する場です。学問という知の営みは、社会を発展させ、変化させる大きな力になります。大学では、生命とは何か、宇宙とはどのようにして誕生したかなど、世界の真理を理解するための学問が行われていると同時に、眼前の課題を解決していく学問も行われています。そしてその学問の原動力は、真理を知りたい、あるいはどうしたら問題を解決できるかといった「探究心」です。学問は強い「探究心」があって初めて成り立つものであるといっても過言ではありません。
 皆さんがこれから挑戦する学問の世界では、これまでの膨大な知識を体系的に学ぶことが必要となります。中途半端な「探究心」では太刀打ちできない高度で抽象的・分析的な世界でもあります。皆さんには、自分自身を励まし、「探究心」を持って、この幾重にも蓄積した知識を一つひとつ学びとり、新たな知識を加えることで、日本はもとよりグローバルな世界で活躍できる水準に達することが期待されています。
 皆さんは、いずれは専門家として自立していきます。そして、専門家として何かをなし遂げるには、一つの専門分野に力を注ぎ、その先端を切り拓かなければなりません。科学する詩人のゲーテは「結局、最も偉大な学術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいう。」と、自分の卓越したことに注力してこそ偉大な仕事ができると述べています。残念ながら近年、専門家を軽んじる風潮がありますが、専門家こそがこの時代を切り拓いてきたことを忘れてはいけません。若者はまず、自分の専門分野を軸として持つことが大事です。
 しかしまた、大学には、時代の先端を切り拓く専門家を育むと同時に、地球社会の未来を思索できる教養を身に付けた人材を育てる役割も求められています。大学で育むべきは、与えられた枠の中で受動的に専門知識を詰め込んだだけの優等生ではなく、溢れる情報の中から、感性を研ぎ澄まして本質を見極め、「専門知識」と「教養」を自己の内部で一体化することで獲得された総合的な知を駆使して、困難な課題に立ち向かうことのできる一人ひとりの人間です。
 元シカゴ大学総長であるロバート・ハッチンス(『理想の大学(The University of Utopia)』)の言葉を借りれば、「科学が細分化をその命としつつ、専門性を高めていくからと言って、教育が専門的なものだけに終始することが当然だと考えてはならない。いかなる専門家も、一人の人間であり、市民である限り、彼自身の専門的な知識の「全体」の中での意味を理解しなければならない。」と指摘しています。
 東北大学は、皆さんに対して、専門分野における深い知識を持ちながら、その専門性にとらわれることなく物事を多元的に観ることのできる幅広い教養を修得することを期待しています。
 第2は、「他者性を受け止めるグローバルマインド」です。
 今、世界で何が起きているか。世界に目を向けてください。
 私たちが生活している地球社会は、特定の国家や地域という壁を越えて、様々な文明が集まる共通の広場へと拡大しています。地球環境の劣化、資源枯渇、民族紛争・移民問題など深刻な課題も地球規模のスケールで展開しています。
 全ての国家が相互依存関係の中で成立する地球社会では、人々が国境を越えた様々な国の歴史と多様な価値を理解しない限り、人類が直面する課題を何一つ解決できません。近年、時代のキーワードの一つに「多様性(diversity)」が語られてきました。多様性・他者性を受け止めるグローバルマインドを身に付けることが、私たち一人ひとりにとって、かつてないほど重要になっています。
 とりわけ次の時代のリーダーとしての役割を期待される皆さんには、一つの国の枠の中だけでなく、地球社会で通用する知的能力を準備しておいてほしいと思います。日本の現実を受け止めるマインドだけでなく、世界全体としっかり向き合い、全ての現実を受け止める心の広がりを持たなければ、地球規模で持続可能な世界を目指すことはできません。利害・対立を超えた他者の価値観の尊重、柔軟な合意形成とともに、地球社会における信頼関係の構築も大事になります。
 東北大学は、110年も前から世界に開かれたグローバルな大学として、常に新たな時代を切り拓いてきました。そして現在、「東北大学グローバルビジョン」を打ち出して、日本の大学という存在を超え、ワールドクラスへの飛躍を目指して様々な取組を展開しています。とりわけ教育面においては、平成26年度に文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援(トップ型)」13大学に採択され、海外研鑽を通じて語学やコミュニケーション力、国際教養力、行動力を鍛える「東北大学グローバルリーダー育成プログラム」(TGL)を実施しています。英語で学位を取得できる「フューチャー・グローバル・リーダーシップ・プログラム」(FGL)でも卒業生を輩出し、本年度からは留学生だけでなく日本人学生を対象としたコースも設置しました。海外の有力大学との国際共同大学院プログラムは、スピントロニクス分野、環境・地球科学分野に続き、本年度はデータ科学分野と宇宙創成分野でも開設します。そのほか、ノーベル賞受賞者クラスの卓越した研究者を招聘し、1ないし3か月本学に滞在する中で、皆さんと自由闊達に議論する「知のフォーラム」という場を設けています。本学では、海外事務所やリエゾンオフィスを設置して皆さんが世界に出ていく足場を作り、早い時期からの海外武者修行を奨励し、海外留学を支援する奨学金も準備しています。私も初めて海外に出た若い時代の経験を今でも忘れることはありません。皆さんには、是非、こうした本学の修学環境を大いに使いこなして、世界に目を向け、飛躍していただきたいと思います。
 第1に、「本質を見極める探究心と教養」を持つこと。
 第2に、「他者性を受け止めるグローバルマインド」を持つこと。
 これが本日ここに入学式を迎えた皆さんに対する、私からのお祝いのメッセージです。 

東北大学のキャンパスも小さな国際社会であり、日本各地はもとより、世界の90か国以上の国・地域からの外国人留学生が学んでいます。本日の入学式にも、多くの海外からの新入生が出席しています。留学生の皆さんには、言葉や生活習慣に戸惑いがあるかもしれません。しかし、本学の学生、教職員、そしてこの仙台の市民は、皆さんを優しく受け入れ、価値観を共有したいと願っていることは間違いありません。本学で学ぶ決意をした志を忘れず、多くの友人と親しみ、本学で学んだ成果とともに、太い絆を育てていただきたいと願っています。ここでその方々のために短く英語で歓迎の言葉を申し上げます。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because we have many International Students here. So, I would like to talk directly to them in English.

First of all, as President of Tohoku University, I would like to welcome you and to extend my heartfelt congratulations.

To seek admission to Tohoku University, every one of you had to make an important decision both mentally and economically. I would like to express my respect and gratitude to you for choosing Tohoku University, a place where you will meet new people and gain new knowledge.

Tohoku University was founded in 1907 as the third National University of Japan. Our philosophy has been to put "Research First" and maintain an "Open door" policy since our university's foundation. The results of our research have proven useful in solving many problems facing society, and by educating leaders we have contributed to establishing a just and peaceful society.

Although I have little time to speak in detail of the history of Tohoku University, I hope you can understand that Tohoku University is one of the leading Universities in your field and I believe you will enjoy studying here.

Finally, I must make a few concluding remarks in Japanese, but first let me welcome you to Tohoku University. I am sure you will have many good experiences in Japan.

最後になりますが、本日入学された皆さんが、良き師、良き友に恵まれ、健康ではつらつとして、東北大学の生活を楽しんでくださることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。

平成29年4月5日


東北大学総長

sign.png

(於:カメイアリーナ仙台)

このページの先頭へ