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平成29年9月東北大学学位記授与式告辞

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された59名の皆さん、修士の学位を授与された143名の皆さん、専門職の学位を授与された47名の皆さん、そして博士の学位を授与された140名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

東北大学は、1907年(明治40年)の建学以来、この東北の地にあって、多彩な学術実績の上に独自の学問を生み育て、人類社会の安定と発展に貢献してまいりました。本学は、その学術実績を基盤として、世界の有力大学と伍していくことが求められる「指定国立大学法人」に申請し、本年6月には文部科学省から東京大学、京都大学と共にその指定を受けました。
 皆さんが手にした学位は、そうした我が国の高等教育を牽引する東北大学で不撓不屈の努力と真摯な研鑽を積んで知的体系を修得した証であり、人類社会の安定と発展に貢献していく資格を得たと同時に、その責任を負ったということであります。
 皆さんは、これから新しい時代のフロントランナーとして、限りなき未来へ飛び立とうとしています。職業人として第一歩を踏み出す人は、これから仕事を通じて社会の様々な問題と格闘することになります。研究の前進を図る人は、新たな飛躍を求めて更なる努力と研鑽に励むことになります。祖国に戻り、祖国の発展のためにその持てる力を発揮する人もいるでしょう。日本で活躍するにせよ、祖国で活躍するにせよ、あるいは外国で挑戦するにせよ、皆さんが東北大学を学びの場として選択したことが正しく、その手にした学位が意味あるものであったと実証されるよう、次のステージでも実りある成果を結ぶことを期待しています。

さて、私たちに耐え難い別離と悲しみをもたらした東日本大震災から、早いもので6年半余の歳月が流れました。
 この大震災は、被災地の日常生活を一瞬にして喪失させただけではなく、既存の社会システムの機能不全を露呈させ、日本のリーダーや科学に対する信頼も失墜させました。私たち大学の存在意義もその例外ではありません。一方、目を世界に転じると私たちは、民族紛争や移民問題をはじめ、地球温暖化、食糧問題、パンデミック、テロリズム、国家間の紛争など、空前のスケールで展開する深刻な危機に直面しています。「明るい未来」を考えるどころか、いよいよ危機が深まっていると不安を感じざるを得ないというのが本音のところだと思います。とはいえ、私たちはこの状況から逃避したり、傍観したりすることは許されません。フランスの哲学者・サルトルの言葉を借りると、「もっといい時代はあるかもしれないが、これが我々の時代なのです。」
 今、このような時代を否応なしに引き受けざるを得ない私たちは、どのように人生の舵取りを進めていくべきなのでしょうか。
 こうした社会の大転換期は、いつの時代にも青年に格好の活躍の舞台を与えてくれます。良く言われる「運命は常に若者の友である」という言葉も単なる偶然や揶揄ではなく、若者の大胆さに未来を託すという意味で大きな期待を込めたものと言えます。
 これからの皆さんの人生では、社会に氾濫する情報の中から、感性を研ぎ澄まして社会の光と影の真実を探り当て、「使命感」を持って創造的な知を駆使することにより、新しい展望を切り拓いていくことがいよいよ重要となっていきます。
 本学で学んだ皆さんには、世界における自分の立ち位置を知り、自らの「使命感」を強く持って、人類社会の安定と発展に貢献していく最前線を担っていただきたい、そのように心から切望しています。

そこで本日は、新たなステージを歩まれる皆さんと一緒に、今後重要となる、この自らの「使命感」について、いくつかの観点から考えていきたいと思います。
 社会がどのような運命を辿るかは、結局のところ、そこに生きる人たちの精神の持ち方と行動姿勢に帰着します。歴史には多くの偶然がつきまといますが、こうした基本に変わりはありません。その精神の持ち方と行動姿勢こそ、一言で言えば、「使命感を持つ」ということです。
 使命感とは、何のためにその活動を行うのか、何のためにその組織は存在するのかといった、自分自身の活動理由あるいは組織の存在理由そのものであり、それを追求し続けようとする姿勢です。したがって、この使命感は、現実の行動において卓抜した力量を発揮しますが、それ自体にゴールがあるものではありません。大切なことは、社会における自らの存在意義、つまり自らの「使命」を根底から考えることです。
 私は今、未来を切り拓くことを託された皆さんに対し、「自己の事柄」に対する使命と並んで、「公共的事柄」に対する使命を持っていただきたいと願っています。皆さんは「自己の事柄」への着目だけで生きていくには有り余る能力を習得しています。
 「公共的事柄」への着目というのは、結局のところ、「自ら」と「共同体を維持するための基本条件が抱える課題」との接点を模索し、知を駆使して配慮することを意味します。これは「自己の事柄」への着目と矛盾するものではありません。それぞれの局面において「自らの事柄」に立脚しつつも、「公共的事柄」の担い手となることに心を配ることを求めています。このことは特に、社会において指導的な立場につくことを志す人々にとって重要になります。
 では、そのような「公共的事柄」に思いを致す「使命感」を強く持つことは、皆さんに何をもたらしてくれるのでしょうか。私は少なくとも次の3つのことを強調しておきたいと思います。

1つ目は、この「使命感」は、高い目標設定と深く結び付いていることです。
 使命感が自分自身の中に打ち立てられると、「もっと高い目標を実現したい」という更なる高みに昇りたくなる気持ちが沸いてきます。と同時に、その気持ちは学びの心と謙虚な姿勢をもたらしてくれます。自分にとって耳の痛いことを取り入れることも学びの一つです。そこに成長・前進が生まれるのです。
 現在の自分の力では達成不可能な高い目標の追求は、既存の常識の延長線の発想という単なる知の理解・模倣の呪縛から解放し、新たなストーリーを発想する知の構造化を求めます。その結果、未来のある一時点でイノベーションが生まれ、イノベーションが新たな価値を創造し、掲げた高い目標を実現させてくれると考えます。

2つ目は、「リスクをとる」こととの結びつきです。
 使命感がその「リスクをとる」勇気を与えてくれます。
 「リスクをとる」ことは目論見が実現しない可能性を常に含んでいるため、高い目標を狙った矢が届かないケースも多いでしょう。しかし、使命感は、逆境の中でももう一度、顔を上げて前を向く勇気も与えてくれます。
 人生がもしトーナメントであったなら、失敗は絶対に許されません。しかし、人生はトーナメントではありません。失敗しても、失敗しても、先へ進めます。大切なことは、リスクを取って実行すると決断したことは、結果が出るまで粘り強く追求することです。人は失敗から多くのことを学べます。その原因を徹底的に探究し、学びを得て、次に活かせば良いのです。

3つ目は、この「使命感」は、自己の行動基準と深く結び付いていることです。
 現代社会において、何を基準に行動するかということはますます切実な問題となっています。使命感は、単に心の状態を示すものではなく、自分が信じている行動方法を示すものです。自分自身が設定した存在価値そのものなので、自己の原点であり、普遍的な目的でもあり、行動の羅針盤となるものなのです。
 そして、「公共的事柄」に思いを致す使命感が自分自身の中に根付いていれば、人として取るべき道に沿った真面目な行動しか取れなくなります。そうでない行動に違和感を持つようになり、正しい倫理観・道徳観・価値観の基本姿勢をもたらしてくれます。それは、自らの心の有様を導くだけでなく、他者から自分の行動に対する信頼を獲得するという意味でも重要です。昨今の科学に対する不信感も、研究に携わる人たちが持つべき「社会のためになるか」を常に問い続ける使命感が脆くも崩れてしまったのが要因ではないかと危惧しています。

社会も、大学も、個人一人ひとりも、この混迷の度を深めつつある世界の中で、いかにして人類が判断を誤らずに、この地球上の仲間たちとともによりよき未来を創造できるかという課題に、必死で格闘をしています。皆さんには、それぞれの活躍の場で、揺るぎない「使命感」を強く持って、その培ってきた能力を発揮し、新しい叡知の未来を切り拓いていくことを期待しています。

東北大学は世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日は、40か国、231名の外国人留学生の皆さんが学位を取得しました。この高い国際性は、東北大学がワールドクラスへ飛躍する研究中心大学として活動していることの証であると考えます。留学生の皆さんには、日本を、そしてこの東北大学を第2のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、最後に英語により送別の言葉を述べ、私からのお祝いの言葉としたいと思います。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because many of you are international students. I would like to talk directly to you in English.

It is my great pleasure to hold this 2017 Autumn Commencement Ceremony of Tohoku University together with the Academic and Executive Staff Members. I am delighted to express my sincere congratulations on the successful completion of your courses in the Undergraduate and Graduate schools.

Many intractable problems including the global environment, disaster risk, energy, international security, low birth rates, and financial and employment issues challenge the world today. In an effort to negotiate solutions to such problems, the world is struggling to attain new growth through innovation in all areas.

Against this background, you are expected to make use of your skills globally. I also ask you to aim to become global-leaders in new fields.

In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.

The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.

To the graduates: I hope that you will continue to foster the alumni networks you have established at Tohoku University, further enhance the skills and knowledge you have acquired here, and venture decisively into addressing policy challenges around the world.

Finally, I sincerely hope that today will be the first step toward a successful future for each one of you.

本日は誠におめでとうございます。

平成29年9月25日


東北大学総長

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(於:東北大学百周年記念会館川内萩ホール)

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