本文へ
ここから本文です
平成30年3月東北大学学位記授与式告辞

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された2,489名の皆さん、修士の学位を授与された1,735名の皆さん、専門職の学位を授与された53名の皆さん、そして博士の学位を授与された450名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

東北大学は、1907年(明治40年)の建学以来、この東北の地にあって、時代のフロントランナーとして多彩な学術実績の上に独自の学問を生み育て、人類社会の安定と発展に貢献してまいりました。本学は、その学術実績を基盤として、世界の有力大学と伍していくことが求められる「指定国立大学法人」に申請し、昨年6月には文部科学省から東京大学、京都大学と共にその指定を受けました。
 皆さんが手にした学位は、そうした我が国の高等教育を牽引する東北大学で、それぞれの学問に対する真摯な努力と研鑽を積んで、高度な知的体系を修得した証として、新しい時代のフロントランナーとして貢献していく資格を得たと同時に、その責任を負ったということであります。

6年前の春、私は、この式場のこの壇上に立ち、これから始まる学生生活への期待に満ちた新入生の皆さんの視線を浴びながら、総長就任後初めての入学式で式辞を述べました。若干の緊張の中で、私自身の決意を胸に、ゆっくり深呼吸をしてから語り始めたことを覚えています。私が総長として歩んだそれからの6年間は、文字通り、皆さんが歩んだ学生生活の時期と重なっています。
 私は、総長就任時に、「復興・新生の先導」と「ワールドクラスへの飛躍」という2つの目標を掲げて、東北大学の将来像と重要施策をとりまとめたビジョン(里見ビジョン)を社会に提示し、新しい時代の東北大学の姿を切り拓こうと努めてきました。今日は、その6年間の大学を取り巻く環境の変化を踏まえた上で、ここで改めてその2つの目標の根底にある思いを述べながら、皆さんへの期待をお伝えしたいと思います。

東日本大震災は私どもにとって忘れることのできない悲しみと衝撃をもたらしました。
 皆さんもあの地震の瞬間、自分がどこで何をしていたか、ありありと思い出せるでしょう。また、あの想像を絶する津波や福島第一原子力発電所の映像も、まざまざと目に焼きついていることと思います。津波の被害にあった沿岸部ほどではないにしろ、本学も学生3名が津波の犠牲になり、建物や設備が損壊し、大切な研究資料も失われるなど一時的に大学の機能が停止するほどの甚大な被害を受けました。しかしそのような中にあっても本学は被災地の中心にあった大学として、本学の持つ知の力を使って東北の復興に力を尽くす決意をし、震災直後から様々な活動を行うとともに、東北大学災害復興新生研究機構の下に8大プロジェクトと復興アクション100を実施してきました。これらの中からは、災害科学国際研究所の実践的防災学や、東北メディカル・メガバンク機構を中心とする未来型医療、マリンサイエンスにおける水産業の復興、福島第一原発の廃炉に向けた研究など、これからの本学の研究の中心になる組織の創設や、国の政策決定に大きな影響を及ぼす課題も多く生まれてきています。東北の復興はまだ十分ではないにしろ、少しずつ成果が表れ始めていると言えます。しかしその一方で、東日本大震災は、私たちに、人間という存在の基本認識、自然と科学技術文明の衝突など根源的問題を改めて突き付け、既存の政治や社会システムへの信頼を失墜させただけではなく、大学が根源的問題に対して十分応えていなかったことも露呈させました。そのような問いかけにこたえる形で、本学は新たに「社会にインパクトある研究」を開始し、現代社会の抱える諸問題を解決し、人類が融和的に共存できる心豊かな未来を創造するため、大学はいかなる役割を果たすべきか、また科学や学問はそれらに対し何を答えられるのか、今、まさに真剣な討議がなされています。皆さんも震災後の混乱の時期にボランティア活動に参加し、また、8大プロジェクトの一員として、さらには、「社会にインパクトある研究」を介して、様々なことを社会や自分に問いかけながら生きてきたと思います。
 その意味では東北大学は、「復興・新生の先導」という目標を掲げ展開することで、東日本大震災を自らの存在の根底に関わる問題と位置付け、徹底的に「学び問う」ことをしてきたといえます。そして、その問いかけと目標への歩みは、学生にとっても教職員にとっても、生き抜くための知の力を鍛え、立ち向かうための勇気を学ぶ貴重な機会であったと考えています。
 皆さん、どうかこれからも大学を離れた後も、徹底的に「学び問う」という知の営みを鍛え続けてください。皆さんには大震災を経験した大学で学んだ者として、東日本大震災がもたらした惨禍を意識して、「生きるとは何なのか。人の悲しみとは、また喜びとは何なのか。科学技術とは何なのか。そして自分には何ができるのか。」と、問い続けることで、自然と人間との共生や社会の在り方に関する新たな可能性を見出していただくことを強く期待しています。

次に、「ワールドクラスへの飛躍」という目標に関するお話をします。
 この6年間「グローバルに活躍する人材」の育成を目指し、高度教養教育・学生支援機構の創設などの教養教育改革、国際共同大学院などの大学院改革、知のフォーラムなどによる海外研究者との交流促進、大学院生や若手研究者への支援強化、新たな産学連携の仕組み創り、ガバナンス改革などを行い、世界標準の大学作りを行ってきました。その結果が昨年の「指定国立大学」へとつながったと考えています。その意味では国際社会で活躍する人材を育成する大学としての環境は整ってきました。しかしながら、世界に目を転ずると、国際紛争やテロ、貧困と格差、環境破壊、自然災害、貿易摩擦など、依然として大きな問題が山積しています。人類社会はいまだにこのような課題を解決できないばかりか、むしろグローバル化の中で悪化している感があります。
 グローバリゼーションは、「経済、文化、政治、環境問題など人類の活動とその影響が、国家や地域の境界を越え、地球規模で一体化していく現象」を指し、それ自体としては必然的運動として、圧倒的なスピードで進行します。とりわけ現在のグローバリゼーションの波は、情報通信技術の進歩と相まって、世界の豊かな多様性を顕在化させながら、同時にその多様性を順次破壊して均質化・単一化を指向しているものと言わざるを得ません。
 グローバル化が世界の結び付きを旗印にしてきたかつての輝きを失い、多様性の破壊の連鎖を呼び起こしていることが明らかになる中で、その破壊の流れに乗って更に均質化に向けて進むのか、それとも共生のバランスの維持・回復に向けて努力するのか、これは、まさに地球社会の未来にとって最大の課題かもしれません。
 しからば、グローバリゼーションの波に席巻される中にあって、私たちはいかなる対処をすべきなのでしょうか。私は次の2つにあると考えます。第1は、私たち一人ひとりが、グローバリゼーションの波をも鳥瞰する「超越的な視座」を持つことで、多様性を認識するということです。この認識を得るためには、時間的・空間的に離れた超越的な点に視座を移すこと、言い換えれば、天空から大地を見るような眼差しを向けることが必要です。
 第2は、私たち一人ひとりが、世界の豊かな多様性を擁護するための「他者を意識する視座」を持つということです。単純化して言うと、それは、自分とは異なる人々との交流を意欲的に進めることに他なりません。他者を尊重し、それぞれの生活や文化、価値観に敬意を払うことのできる知性と教養、そして高い志を持ち続けることです。この2つの視座はグローバルリーダーが持つべき6つのキーコンピテンシー(鳥瞰力や異文化・国際理解力)として、教養教育の中で重要視してきました。
 私は、皆さんが、東北大学における成長のプロセスを通じて、これらの視座を養ってきたものと確信しています。それこそが、真の「ワールドクラスに飛躍する大学」の基盤であり、私が目指してきたものでもあるからです。
 これから皆さんは、多くの、そして様々な出会いを経験するでしょう。それらの出会いを通じて、他者を感じ、他者と協働して、その持てる力を発揮していただくことを強く期待しています。そしてそのような営みの中から相互の理解を深め、多くの困難な課題を解決する糸口を見出していただきたいと思います。

数日後に、私も皆さんと一緒に大学を離れることになります。大学入学時から50年もの長きにわたって東北大学と一緒に過ごしたことになります。大学を離れて次の人生といっても、私にはもうそれほど多くの可能性は残されていません。しかし、皆さんには無限の可能性があり、皆さんの時代はまさにこれから始まります。
 皆さんの時代を創るにあたっては、とりわけ「3.11以後」の新たな地平を切り拓く際には、どうか、「学び問う」ことを自らに言い聞かせ続け、超越的な視座と同時に「他者」性を意識して、自信と誇りを持って研鑽を続けてください。これが今日ここに学位記授与式を迎えた皆さんに対する私の、そして東北大学のメッセージです。皆さんどうぞグローバル社会において、諸外国の精鋭と伍してその英知と行動力を発揮し、ワールドクラスへと存分に飛躍してください。

皆さんは、東北大学から旅立っても、東北大学のコミュニティの一員です。全学同窓会である東北大学萩友会の一員でもあります。毎年秋にはホームカミングデーを開催しています。皆さんが折りに触れ母校を訪ね、この緑豊かなキャンパスで培った師弟の絆と学友との友情を更に深めて下さることを願っています。

東北大学は、世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日は、30か国、313名の外国人留学生の皆さんが学位を取得しました。外国から東北大学に学び、学位を取得された努力と研鑽に対し、改めて祝意と敬意を表します。かのアルベルト・アインシュタインは、「日本~この国を愛し、尊敬しないではいられない」と語っています。留学生の皆さんには、日本を、そしてこの東北大学を第2のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、ここで簡単に英語により送別の言葉を述べたいと思います。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because many of you are international students. I would like to talk to you directly in English.

It is my great pleasure to be with you for this 2018 Spring Commencement Ceremony of Tohoku University, together with the Academic and Executive Staff Members. I am delighted to express my sincere congratulations to you on the successful completion of your Undergraduate and Graduate studies. I would also like to congratulate your families, who supported you while you studied or engaged in research, and who are present here today to witness your academic achievements.

Many intractable problems challenge the world today, including damage to the global environment, the risk of natural disasters, energy shortages, terrorist acts, missile launches, low birth rates, and financial and employment issues. In an effort to negotiate solutions to such problems, the world is struggling to achieve new growth through innovation in these and other areas.

Against this background, you are expected to make use of your skills on a global scale. I also ask you to aim to become global leaders in new fields.

In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.

The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.

To the graduates: Graduation does not mean the conclusion of your relationship with Tohoku University. The ties between you and Tohoku University will last throughout your lives. I hope that you will continue to foster the alumni networks you have established at Tohoku University, further enhance the skills and knowledge you have acquired here, and venture decisively into addressing policy challenges around the world.

Finally, I sincerely hope that today will be the first step toward a successful future for each one of you.

本日は誠におめでとうございます。

平成30年3月27日


東北大学総長

sign.png

(於:カメイアリーナ仙台)

このページの先頭へ