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平成30年9月東北大学学位記授与式告辞

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された2,447名の皆さん、修士の学位を授与された1,750名の皆さん、専門職の学位を授与された62名の皆さん、そして博士の学位を授与された469名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。
 また、この間、皆さんが晴れて本日を迎えることを心待ちにし、支援をしてくださったご両親、ご家族、関係者の皆様に、心よりお慶びを申し上げます。

東北大学は、今から112年前の1907年の建学以来、「杜の都」あるいは「学都」と呼ばれる仙台の地にあって、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念のもとに、多くの指導的人材を輩出し、イノベーションを駆動する世界的研究成果を挙げてきました。
一昨年の6月には、世界の有力大学と伍していくことを使命とする「指定国立大学法人」の最初の三校に選ばれました。これも、長年にわたる様々な取組とその成果に裏打ちされてこそ、実現したものです。

東北大学は、創立時に民間や地方自治体からの支援を受けており、当初から社会とともに歩んできた大学でした。皆さんを送り出すにあたり、その長い歴史の中で、改めて本学が「社会と共にある大学」であることを胸に刻んだときのことをまずお話ししておきたいと思います。それは8年前に発生した東日本大震災です。2011年3月の発災直後、本学では、構成員が自発的に100以上のプロジェクトを立ち上げ、復興を後押ししました。また、1年後には災害科学国際研究所を創設し、大震災の教訓をもとに世界の防災減災の推進に貢献してきました。
 2015年3月に仙台で開催された第三回国連防災世界会議において、「仙台防災枠組み」が採択され、災害による人命の損失や経済的損失などを削減する、7つの防災達成目標に向けて各国が取り組むことが合意されました。本学は、その基盤として重要になる災害被害統計を整備するため、国連開発計画(UNDP)と連携して災害統計グローバルセンターを設立し、「仙台防災枠組み」の達成に向けて大きく貢献しています。同じ2015年の9月には国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、さらに、12月には気候変動抑制に関する「パリ協定」が合意されました。本学が、「社会にインパクトある研究」と呼ぶ、持続可能な社会の創造に向けた取組を立ち上げたのも、まさに同じ年でした。このように大震災を経験した東北大学は、サステナブルな世界の実現に向けて先進的に行動する世界有数の大学となっているのです。皆さんは、そのような重要なアイデンティティを共有するコミュニティの一員であるのです。

さて、21世紀は「データの世紀」であると言われます。次に「データの世紀」に対する東北大学の貢献をお話しして、皆さんとともに私たちの社会の今後について考えてみたいと思います。現在、私たちが利用しているデータは、電源を切っても蓄えた情報が保持される「不揮発性」の記憶装置に保存されています。代表的なものにハードディスクドライブとフラッシュメモリがあります。現在使われているハードディスクドライブは、すべて垂直磁気記録方式を採用していますが、これは本学名誉教授の岩崎俊一先生が発明されたものです。
 また、皆さんが使っているスマートフォンを含めて多くの電子機器で用いられるフラッシュメモリもやはり本学名誉教授の舛岡富士雄先生が企業在籍中に発明されました。すなわち、現在、世界中で蓄積される膨大なデータのほとんどすべてが、東北大学関係者が生み出した技術に納められていると言っても過言ではありません。

データは保存し活用してこそ価値が生まれます。東北大学で最も大きい記憶容量をもちそれを活用している組織はどこかご存知でしょうか。それは東北メディカル・メガバンク機構です。27ペタバイトのデータを蓄積できます。東北メディカル・メガバンク機構では、地域の皆さんのご協力を得て実施される大規模な調査を通して、健康状態の情報やゲノム情報を蓄積し、その解析・理解を通してこの地域から新たな医療を創造しようとしています。蓄積したデータが、私たち一人ひとりに合った「個別化医療」や「個別化予防」を実現するために役立つのです。まさに「データの世紀」を迎えた私たちの社会を象徴しています。
 データの価値が分野横断的に波及するこれからの世界を切り拓くのは、まさに皆さんです。これまでに学んだ自分の専門分野に立脚しつつ、社会全体を俯瞰する能力を発揮していただきたいと思います。

本学は、昨年の11月に「東北大学ビジョン2030」を公表しました。これは、本学がこれからの社会にどのように貢献していくかを見据え、2030年に本学があるべき姿とそこに至る道筋をまとめたものです。副題を「最先端の創造、大変革への挑戦」としました。2030年といえば、今からおよそ10年後です。その頃、皆さんはどのような挑戦をしておられるでしょうか。
 世界は今、大きな変革期を迎えています。人工知能(AI)や生命科学の進展が、社会のあり方を根本的に変えつつあります。例えばWebから収集した大量のデータを用いて「あなたよりも、あなたのことをよく知るAI」を実現することが可能になりつつあります。また、迅速にかつ効率良く品種改良ができる生命科学の最先端技術を応用したゲノム編集食品の流通が、早ければ今年の夏にも解禁されると報じられています。
 これらのテクノロジーは、適切に使えば、持続可能で多様性と包摂性を備えた社会を実現するために貢献するでしょう。しかし一方、AIはその学習過程で作成者のバイアスが織り込まれるなどの危険性も指摘されています。また、昨年、ゲノム編集がなされた双子が誕生したとの報道を受けて、各国の学術界から強い懸念や非難の声が上がりました。これらのテクノロジーは、まさに「諸刃の剣」(もろはのつるぎ)なのです。今後これらのテクノロジーをいかに使いこなすかという議論は、皆さんの手にゆだねられています。

皆さんは、このような変革の時代に社会に出ていくことになります。それはまさに、「海図のない海」へ舟を漕ぎ出していくようなものです。そこで羅針盤となるのは、皆さんが本学で培ってこられた総合的な知の力にほかなりません。本日皆さんが手にした学位記は、皆さんの努力の賜であり、良いスタートに向けた飛躍の土台となりますが、何かを保証してくれるものではありません。これからの軌跡は皆さん自身が獲得した知の基盤に基づき努力して切り拓いていくのです。皆さんが東北大学で学び、身に着けた力は、必ずや皆さんの夢を実現し、より良い社会に至る道筋を示してくれるに違いありません。

これから皆さんは、様々な人々と連携して、新たな社会を創っていくことになります。そのとき、本学のコミュニティの一員であることが、皆さんにとって大きな力となるでしょう。本学には、全学同窓会である「東北大学萩友会」のもとに、国内には五〇を超える同窓会があり、海外にも、ニューヨークやインドネシア、ベトナムなど七か所の同窓会があります。もし同窓会がなければ、皆さん自身で立ち上げてください。本学のネットワークも大いに使って、世界をより良い場所にしていき、皆さん自身も豊かな時間を過ごしてほしいと思います。
 そして、そこでまた、皆さんとお会いできる日を、心から楽しみにしております。

ここに出席されている多くの日本語を母国語としない卒業生、修了生のために、英語でお祝いの言葉を述べます。

Since we also have many non-Japanese speaking members, I would like to take this opportunity to address our international students and congratulate them on their successful graduation.

We are currently living in an ever-changing world with rapid developments in technology and drastic transformations in society.

It is said that the twenty-first century is the century of data.

As you might know, both the non-volatile data storage utilized in hard disk drives and the flash memory have been invented by affiliates of Tohoku University. This means, that innovations of Tohoku University are involved wherever data is gathered or used in our everyday lives. We are not only using the accumulated information, but relying on the vast amount of data to improve our quality of life.

Just as an example, our Tohoku Medical Megabank Organization has the capacity to store twenty-seven petabytes of health and genome data. All with the goal to establish "personalized medicine" and contribute to the life in the communities.

But there are also examples that the ever so popular Artificial Intelligence may embody its creator's bias during the learning phase.
 So it becomes a question of how to use technology and what value to associate with these new developments. It is a question each and everybody has to answer for themselves.

During your time here at Tohoku University, you have been gaining deeper insight into the basic mechanisms of the world, obtaining not only a more fundamental understanding of your surroundings, but also means to expand your intellectual horizon and convey wisdom for the benefit of everybody.
Wisdom means to understand the core of the matter and to have the competency as well as the necessary judgment to properly utilize important findings for further progress.

You have acquired the expertise to realize and comprehend current needs as well as to work together with others to overcome difficulties. You have the ability to contribute not just your discoveries and innovations, but also convey the mindset and character that led to them, including appropriate ways to utilize new technological developments when facing unknown challenges.

Today marks the beginning of a new chapter of your life as an international citizen in the global world. You will most likely encounter challenges you did not foresee or experience. Challenges, that seem impossible to overcome at first glance.
 However, I am certain, that your experience from your time here at Tohoku University will help you in making the appropriate judgement and handling any situation adequately.

You should also keep in mind that the ties you formed over the past years with other members of our university do not dissolve today. In fact, today marks the new beginning of a partnership between equals.

Tohoku University has a global alumni network managed by our alumni association 'Shuyukai'. So you have the benefit to keep in touch with your alma mater, be informed about the most recent advancements and - most importantly - help each other as friends and family.

And if you have the opportunity to visit Sendai again, please let us know. Our doors are always opened and you are always welcome here.

Congratulations on your graduation, all the best for your future and see you again.

あらためて、本日は誠におめでとうございます。
 皆さんが今後、世界に向けて大きく飛躍することを心から期待して、私の式辞といたします。

2019年(平成31年)年3月27日


東北大学総長

大野 英男

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