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大野英男総長

明けましておめでとうございます。

2021年は2020年に引き続き新型コロナウイルス感染症が世界を覆った年でした。変異株が流行し、医療のひっ迫を始め社会がさらに試された年でもありました。幸い国を挙げたワクチン接種などが功を奏し、日本の年末年始の感染状況は、世界各国と比べてコントロールされたものであったと言えます。本学も、病院が中心となって体制を整え、5月24日から東北大学(宮城県・仙台市)ワクチン接種センターを開設し、大学拠点接種も並行して進めました。延べ52万回にのぼる接種を行ったことになります。10月初旬には、本学全構成員の87%が2回目の接種を完了し、それ以降キャンパスでの感染報告はありません。警戒を怠らないようにしながら、「東北大学ビジョン2030」とその改訂版「コネクテッドユニバーシティ戦略」で描いた本学の姿に向け、取り組みのレベルをさらに上げていきたく思います。

さて、本学は今年創立115年周年を迎えます。加えて、法文学部が設置され文理をカバーする総合⼤学としての歩みを始めて100年の節目にもあたります。歴史的に積み重ねてきた知の多様性と世界に開かれた価値観を基盤として、東日本大震災から10年余、復興の羅針盤となり駆動力となってきました。この経験は、私たちが総合研究大学の新たな地平を切り拓き、自身のアイデンティティとして確立するための土壌でもあります。私たちは、SDGs、コロナ後のグレートリセット、カーボンニュートラルなど、人類社会共通の課題に挑む総合研究大学として発展していきます。その姿を示すために2021年には"Green Goals Initiative"を宣言し、豊かな未来の実現に向けた新たな一歩を踏み出しました。この新年を、私たち自身の変革に向けたターニングポイントとして、東北大学の新たな未来を設計する年にしていきましょう。

それでは本学の未来に向けたシステムはどのようにあるべきでしょうか。

これまで本学は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念を掲げ、社会を先導する人材の育成と新たな価値の創出に取り組んできました。「研究第一」は、本学の土台が世界的に卓越した研究にあること、提供する教育や社会との共創活動のバックボーンにも世界的研究があり、それが社会からの信頼の源泉であることをうたっています。また「門戸開放」は、今の言葉で言えばダイバーシティーです。日本のジェンダーギャップ指数や国際化指標が低迷する中、本学はグローバルスタンダードの参画度をもって社会を先導し、バックグラウンドによらず多彩な才能が活躍できる機会を拡充する使命があります。最後に、「実学尊重」は新たな社会価値の創造にほかなりません。本学では、Green Goals Initiativeのもと、骨太の産学共創をオンキャンパスで進める共創研究所や、自治体と連携するスーパーシティ・スマートシティ構想、さらには社会の課題解決を先導するスタートアップなど、社会に開かれた共創が進展しています。自然災害やパンデミックなどの予測困難な事象への対処、カーボンニュートラルや人口問題など人類社会の在り様そのものに関わる課題解決には、科学を社会に取り込み、多様なステークホルダーとともに未来価値を共創する大学の力、すなわち「実学尊重」が求められています。

このような多様な役割を果たす研究大学には、価値の創造に構成員が専念できるシステムが必要不可欠です。世界を代表する研究大学は、研究教育を担う教員の数と同程度以上のスタッフを擁するケースが多く、教員は教員にしかできないことに集中できる仕組みを作っています。誤解を恐れずに言えば「ジョブ型」の仕組みのもとで動いているのです。社会の要請に応えて本学構成員が持てる力を発揮するには、さまざまな業務や会議を融通無碍にこなす「メンバーシップ型」から、研究や教育に集中できる「ジョブ型」にシステムを変えていかなければなりません。また、事務系・技術系職員、専門性の高いURAや特任教員などの皆さんが、大学を支え発展させる主体として活躍できる環境も整える必要があります。

本学は、その長い歴史の中で、大学の仕組みにアドホックな改良を重ねてきたために、必ずしも合目的的な組織や業務のあり方とは言えない面が目立ってきています。全体設計を見直しオーバーホールをする時期に差し掛かっているとも言えるでしょう。構成員が卓越した研究や教育、そして革新的な社会価値創造にそれぞれの立場で集中できる大学としての体制づくりが求められています。このようなシステムによって、本学は社会の要請に応えて機能を拡張する「成長する公共財」として一層の発展を遂げるものと考えます。社会に開かれた諸活動を通して自由度の高い経営資源を獲得するとともに、それを本学が長期的な視点から重視する人材育成や基盤的な学術分野の振興、さらには必要な大学機能の強化に充てていく、この循環を速やかに起動しなければなりません。スタートに必要な資源は大学債の発行や大学ファンドの活用などを想定すべきです。しかし、最も重要であるのは、私たち自らが大学のシステムを変革していくという決意と行動変容であると考えます。

私たちの活動は、自然や人間への理解を深めること、得られた知見を活用し応用すること、それらを総合した「総合知」によるより大きな社会的課題を解決に導くこと、そしてこれらの活動を通じた人材育成と、多岐にわたっています。これらの卓越した価値創造の営みを一層深めるために、東北大学の未来に向けた変革にともに取り組み実現していきたく思います。

令和4年1月4日


東北大学総長

大野 英男

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