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大野英男総長

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

【研究大学として誕生した東北大学】

昨年10月に、東北大学は創立115周年・総合大学100周年の記念式典を執り行いました。日本で三番目の帝国大学として創立されて以来、本学は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の3つの理念を礎に、脈々と伝統を受け継ぎながら、知の拠点として研究成果を挙げ、社会に還元し、イノベーションを牽引してきました。

「研究第一」の源流は東北大学の草創期に遡ります。初代総⻑の澤柳政太郎は、最初の入学宣誓式において「この点(研究)に於いては(世界の)何れの⼤学にも退けを取らざる覚悟なり」と述べ、日本の大学として先駆けて「研究⼤学」であることを宣⾔しました。

以来、本学の関係者が挙げた成果は枚挙に暇がありません。魚の骨の形をした八木・宇田アンテナは、いまも世界の多くの建物に見ることができます。本多光太郎に始まる永久磁石研究は、世界最強のネオジム磁石を生み出し、風力発電による再生可能エネルギーを支えています。大学草創期の活動は、現在も存続する数々のスタートアップを生み出してもいます。加えて、本学の附属図書館は、古典の百科全書と呼ばれる狩野文庫や、漱石の書き込みのある蔵書やノートからなる漱石文庫などを収蔵し、国宝2点(史記、類聚国史)を含め、人文社会科学の貴重な研究資料を提供しています。

戦後になってからは、データの世紀を支える垂直磁気記録ハードディスクドライブ(HDD)とフラッシュメモリの研究、西澤潤一にその端を発し世界を先導する半導体研究があります。また、本学の多彩な才能は、例示した理工学領域のみならず、分野を越えて世界で活躍しています。例えば、本学は、戦後に設置された国際司法裁判所、国際海洋法裁判所、国際刑事裁判所のすべてに裁判官を輩出した世界でも極めて希な大学でもあります。

【新たな価値創造の萌芽】

最近では、東⽇本⼤震災の経験を経て、それまでディシプリンとして未成熟であった災害科学の確立に取り組むとともに、この発展として生物多様性などの国際アジェンダを支える活動が生まれています。カーボンニュートラルへ向けた取り組みも拡がり、次世代放射光施設ナノテラスの活用を想定した多様なグリーンイノベーション研究が展開されています。本学子会社VCが出資してきたスタートアップ第一陣の4割はグリーン関係です。さらには未来型医療・予防を支える一般住民バイオバンク・コホートなどがあり、学術と社会を結ぶ新たな価値創造が加速しています。

このように振り返りますと、本学は、世界的に卓越した研究成果をもとに社会課題解決と価値創造を先導する開かれたプラットフォームでありつづけてきたことがわかります。

【予測困難なVUCA時代を迎えて】

さて、昨年は世界的に多事多難な年でした。2月にロシアがウクライナに侵攻し、エネルギー価格高騰とインフレが各国の生活を脅かしています。新型コロナウイルス感染症の収束もなかなか見通せず、気候変動への対応も待ったなしの状況です。日本に目を向けると、少子高齢化と人口減少、取り巻く地政学的不確実性、世界比較で見た賃金水準の停滞や高い国債発行残高など、多くの課題が山積しています。

このような中で、より豊かな未来を切り拓くためには、卓越した知を創造し活用するための柔軟性の高い "antifragile" なエコシステム(生態系)をデザインし、持続的かつ臨機応変に発展・成長させていくことが必要です。本学のような研究大学が、これまで以上に研究・教育の卓越性を追求するとともに、さらには従来型の高等教育機関の枠を超えて、社会とのエンゲージメントと共創を通して価値創造を行う現代的プラットフォームへと進化する必要があります。

【価値創造のプラットフォームへ】

新たな研究大学のエコシステムはいかなる戦略をもってデザインされるべきでしょうか。多様で多彩な才能を呼び込む徹底した開放性・国際性の追求、研究者とりわけ若手研究者が躍進する支援体系、スタートアップ創出や資金循環も含めたエンゲージメントの加速、研究と共創を通して社会価値を創造する人材の育成とアントレプレナーシップの浸透、そしてそれらを支える拡張された経営を備えていなければなりません。

これらを有機的に結びつけることで、東北大学は、私たち構成員自身をも含む多様なステークホルダーにとって、世界とつながり豊かな未来を創り出す場となるはずです。ステークホルダーとの共創を通し、学生諸君は学びと挑戦を通して自己成長を実感し、教員・研究者は研究教育に存分に力を発揮するとともに、職員・スタッフはそれぞれの個性を活かした活躍ができる、そのような新たな環境やしくみを整えることが必要です。

今、日本、そして世界が求めているのは、新たな価値創造の力です。広い意味での多様性が力となるこの世紀においては、開かれた大学として多様なステークホルダーを迎え入れる必要があります。徹底した国際性の追求、バラエティに富むものの見方や考え方(すなわち認知的多様性)の重視、学生と社会人の区別がない共創などを通して、価値創造のエコシステムが躍動するプラットフォームとして一層の発展を遂げる、このような姿を念頭に、皆さんとともに東北大学のポテンシャルを開花させる年としたく思います。

令和5年1月4日


東北大学総長

大野 英男

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