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二酸化炭素の吸着により多孔性磁石の性能向上に成功 ―局所的な構造ゆらぎと電荷ゆらぎの抑制に起因―

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 宮坂等
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 二酸化炭素の吸着により、磁気相転移温度(注12が大きく向上する分子性多孔性材料(注3の二次元層状分子磁性体(多孔性磁石(注4)を見出し、その相転移温度向上の機構を明らかにしました。
  • ガス吸着による局所的なゆらぎの制御を磁気挙動で実証した例は世界初です。
  • 化学的刺激により駆動する分子デバイスの新たな駆動原理として期待されます。

【概要】

磁石(磁性体)は家電製品や電気自動車からハードディスク等、身の回りで様々に用いられ、よく知られた材料です。磁性体の相転移温度低下は、時として熱運動による構造ゆらぎや電荷ゆらぎ(注5の「欠陥」によりもたらされ、それらを修復することは非常に困難です。

東北大学金属材料研究所の高坂亘 准教授と宮坂等 教授の研究グループは、大阪大学大学院基礎工学研究科の北河康隆 教授の研究グループおよび中国の武漢大学の張俊 教授との共同研究により、磁気秩序に不利に働く局所的な電荷ゆらぎをもつ多孔性層状分子磁性体について、二酸化炭素の層内への挿入による電荷ゆらぎの抑制により、磁気相転移温度が大幅に上がることを見出しました。またこの相転移温度の変換は二酸化炭素の吸脱着により可逆です。

本材料のようにガス(二酸化炭素)吸着による局所ゆらぎの抑止(欠陥修復)に基づく磁気相制御は世界初です。

構造と電荷、スピンの相関についての基礎学問の解明のみならず、化学センサーや化学磁気スイッチなどの化学的刺激により駆動する分子デバイスの新たな駆動原理として、今後の発展に興味がもたれます。

本研究成果は、2023年10月15日付け(現地時間)でドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionにオンライン掲載(Early View)されました。

図1. 電荷ゆらぎをもつ分子性多孔性材料へのCO2の吸着による物質変化の模式図(左図)と磁気相転移温度の変化(右グラフ)。

【用語解説】

注1. 磁気相:常磁性、強磁性、反強磁性、フェリ磁性をはじめとする様々な電子スピンの配列の様式(磁気秩序状態)を総称して磁気相といいます。常磁性は秩序を持たない状態であり、強磁性、反強磁性、フェリ磁性は磁気秩序を持つ状態です。磁石として機能するのは、強磁性、フェリ磁性の磁気秩序状態であり、反強磁性は、磁石としての機能は持たない磁気秩序状態になります。磁気相転移温度は最も基本的な磁気相の性質のひとつです。

注2. 磁気相転移温度:その材料が磁石として機能する上限温度のことを磁気相転移温度と呼びます。それより高い温度領域では常磁性体となります。

注3. 分子性多孔性材料:ゼオライトや活性炭、シリカゲルのような無機物のみから構成される従来の多孔性材料に対して、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料の総称です。金属−有機複合骨格(Metal−Organic Framework; MOF)や多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)などと呼称されます。金属イオンの配位環境と有機物の持つ高い分子設計性に特徴があり、ナノサイズの細孔を利用した気体吸蔵・分離・触媒・センサーなどの分野での応用が期待されています。

注4. 多孔性磁石:以前にも二酸化炭素を利用した多孔性磁石を報告していますが(参考文献12)、今回のようなゆらぎを利用した磁気相制御とは異なる機構によるものです。他にも酸素や有機溶媒蒸気、ヨウ素分子の吸脱着を利用した磁石のON-OFF(磁気相変換)が可能な材料が、これまでの研究において見出されていました(参考文献345)。

注5. 電荷ゆらぎ:結晶学的に同一の分子は、同じ電子状態・価数をとるのが一般的です。ここでは結晶構造中に、周囲の同一分子とは異なる電子状態・価数を取る分子が極微量含まれる状態のことを電荷ゆらぎと呼んでいます。電荷ゆらぎ量が大きい時は、結晶構造にその影響が反映されます。一方、今回は構造解析では判別できない程度のわずかなゆらぎでしたが、赤外吸収スペクトルなどの分光手法により検出可能でした。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 錯体物性化学研究部門
教授 宮坂 等(ミヤサカ ヒトシ)
TEL:022-215-2030
Email:miyasaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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