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発見は未知ノ奥にあり。 ー東北大学のこれまで、これから

大野英男第22代東北大学総長のインタビューシリーズ。本学のこれから、東北地域から日本、世界へと飛躍するビジョンを語ります。
今回は4回目。東北大学と地域の活性化が主なテーマです。

聞き手は、本学経営協議会委員であり日本経済新聞社参与の長田公平氏です。

大野第22代総長インタビュー Vol.4
「地域活性化の中核となる」
2024年1月

第22代東北大学総長 大野英男

聞き手|日本経済新聞社参与 
長田公平(東北大学経営協議会委員)

今回は、東北大学と地域の活性化について伺います。

まず触れておきたいのは、本学の創立に地域が深くかかわっていたことです。例えば古河家(現古河グループ)や宮城県から寄附金、土地、建物の提供と、様々なかたちで支援がありました。先行した東京、京都の両国立大学が国の資金で設立されたのに対し、本学は国費に加え地域が深く関わって設立された、当初から社会とともにある大学なのです。

スタートアップの育成を例に取ると、宮城県だけでなく、東北地方の全体に新たなうねりを生み出そうとしています。

歴史的にも本学の研究成果に基づいた会社が設立されています。現在のトーキンや通研電気工業がその代表です。大学の知が地域や社会に貢献する価値創造のチャンネルとしてスタートアップの重要性がますます重要になっており、このDNAを再起動するべく取り組んでいます。

2021年には本学を中心に、東北・新潟の10大学(注1)が参加するスタートアップ創出のための組織、「東北地域大学発ベンチャー共創プラットフォーム(現:みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム)」を設立しました。これは起業のための準備資金を提供するギャップファンドプログラムを共同運営するものです。21・22年度の2年間で44件(申請83件)を支援し、すでに6社の起業につながっています。本学が2013年から実施しているギャップファンドの仕組みや経験・ノウハウ、組織の作り方、人材育成などを使っていただいています。より広い地域での新しい企業、産業の育成への手応えを感じています。

この動きを加速したい。

これらの取り組みが地域の価値創造につながり、その結果として、地域に人が集まり、活性化につながる。それによって、また新たな企業、産業が誕生してくるという好循環が生まれることを期待しています。

地域への貢献という意味では、2011年3月の東日本大震災は大きな出来事でしたね。

大学の構成員も被災しました。だからこそ、支援から東北の復興と新生へと取り組みが拡がりました。震災直後には100を越えるプロジェクトが自発的に立ち上がりました。大学も組織的に8大プロジェクトを災害復興新生研究機構のもとに推進しました。中でも災害科学については、災害に強いレジリエントな社会を築くため幅広い分野が協力する学際的な研究が必要です。地域、社会、そして世界に向けて、実践的な防災対策の構築に貢献していくのが使命と考えています。これを担っているのが、8大プロジェクトの一つであり、震災の翌年の2012年4月に設立された「災害科学国際研究所」(注2)です。災害が起こる前、発災直後、復興から新生へと社会のサイクルを考え、防災・減災を一層進展させるために医学・自然科学・社会科学分野のすべてを包含した日本で初めての災害科学の研究所です。

青葉山新キャンパスにある災害科学国際研究所

災害科学についての研究では、東北大学が世界の中心になっていきたいという強い意志ですね。

私たちの経験や取り組み、そして世界で起こった災害の経験を起点に、社会、そして世界のレジリエンスを高めることは東日本大震災を経験した本学の使命です。仙台市などと協力し、国連などの国際機関、各国政府、企業、市民団体などが一堂に会して災害に対応する具体的な手法、対策などを話し合う国際的な会議を主導しています。2015年に仙台で開催された「第3回国連防災世界会議」の誘致を発端に、17年に「第1回世界防災フォーラム」、19年に第2回、23年に第3回を仙台で開催しました。

この分野での国際的なネットワーク作りも進めている。

災害科学についてUW(ワシントン大学)、UCL(ロンドン大学)、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)などの世界の大学とのネットワークを形成し取り組みを進めています。特に、UCLとは福島をフィールドとした災害研究拠点の設置を予定しています。

この流れを仙台から東北全体に広げたい。

そうです。その向こうには日本、そして世界があります。福島に計画している新しい活動拠点では、本学の各種研究開発活動を展開することや、毎年開催している災害科学のサマースクールをここで開催することを考えています。このサマースクールには海外から多くの若手研究者や大学院生が参加します。ハーバード大学やUCLAの先生や学生が参加するイベントもあります。そういう国際的な人の流れを太く大きくしていくことによって、福島が世界の新生の起点となることを目指したい。これは間違いなく地域の活性化にもつながります。

地域と世界が直接、結びつくことになりますね。

エネルギも食糧も自給できず人口減少の日本を考えると、価値を提供し世界とつながることは今まで以上に重要になっています。ハードやソフトはもとより、林檎やイチゴなど果物のマーケットも世界を見据えています。東北大学を核として地域と世界を結びつけていく活動を、積極的に広げることで、この流れを加速できると考えています。

そのために、「国際卓越研究大学」の認定を受け、その資金を地域の活性化にも投じていく、ということですね。

ところで、この4回のインタビューでは、自然科学系の研究の活性化、国際化を中心に伺ってきましたが、人文社会科学系についてはどう考えますか。

人文社会科学系の営みは価値創造そのものです。東北大学における活動の国際的存在感をさらに上げていくため、今年10月に「統合日本学センター」を新設しました。日本の文化、歴史、社会について法学、経済、教育などの視点も入れ総合的・国際的な視点から、研究していこうというものです。これは、本学が2015年から「日本学」を対象に17カ国29大学とネットワーク「支倉リーグ」(Hasekura League)を組んで、学生や研究者の国際的な交流を行ってきたものを発展させるものです。多面的な取り組みによって、文化や法制度の導入と変遷の過程を解き明かすことは、グローバルサウスにも示唆に富む展望を提供するものと考えています。

左から 統合日本学センター国際展開ユニット長 クレイグ クリストファー 准教授、副センター長・デジタルアーカイブ研究ユニット長 加藤 諭 准教授

1922年に東北大学を訪れたアインシュタインは「仙台は、学術研究に最適な都市」との言葉を残しています。東北大学は100年も前から世界の頭脳循環の一翼を担っていたわけです。今後、研究大学の地位をさらに確たるものにし、広く地域の飛躍、日本の活性化、世界への貢献に結びつけていくのが、国際卓越研究大学となる本学の使命であると考えています。

(注1)10大学は、東北大学、弘前大学、岩手大学、秋田大学、山形大学、福島大学、新潟大学、長岡技術科学大学、宮城大学、会津大学。

(注2)International Research Institute of Disaster Science、略称IRIDeS。現在、専任教員は約70人。

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ビジネス情報番組「賢者の選択」と番組タイアップ記事である日経ビジネスで本学の取り組みが様々な角度から紹介されました。

ビジネス情報番組「賢者の選択」ダイジェスト版
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