2016年6月24日 第129回サイエンスカフェ
心の働きの多様性を科学する ~目から脳の働きを探る試み~
講師:虫明 元 東北大学大学院医学研究科 教授
プロフィール
出身は仙台で、仙台第一高等学校卒業後東北大学医学部に入学した。卒業後脳生理学を研究するために、大学院に進学した。睡眠の研究、その後随意運動に関わる大脳皮質の働きを研究しニューヨーク州立大学に留学した。帰国後は科学技術振興機構のさきがけ研究員を一時兼任し、問題解決時の前頭前野の働きの研究を始めた。2005年東北大学大学院医学系研究科生体システム生理学分野の教授となり現在に至る。最近は脳機能の計測技術の開発や脳活動のリズムの研究を行っている。
開催情報
開催日:2016年6月24日(金)18:00~19:45
会場 : 東北大学百周年記念会館 川内萩ホール2階会議室
※開催場所に注意してください。
概要
心には様々な特性があり、ヒトは多様な性格を示します。その特性は脳の働きとして調べられるようになってきました。 脳の働きのバロメータになる瞳孔の反応を紹介して、心の多様性を捉える試みを一緒に議論します。
Q&A
Q.HSPは遺伝に関係あるのでしょうか。またあるとすれば変えることは不可能なのでしょうか
HSPには遺伝的背景があるとされています。しかし他の性格特性でも同様ですが、遺伝にかかわるとしても全体の半分程度以下で、それ以外はその人固有の経験の影響(非共有環境)が多いです。したがって年とともにHSPの特性が変化することは当然あり得ます。一方で1歳ころの行動から将来のHSPの傾向を予想できるともいわれます。しかしそれはあくまで多人数を観察した時の平均値の議論で、個別の人の例では特性が変わっていく事がありえます。「遺伝性」すなわち「変化しない」と考えられがちですが、実際には個別の経験、環境や他者との相互作用で変わることもあると考えたほうが良いと思われます。
Q.性差について、遺伝環境による性格の違いについてどのような見解をお持ちでしょうか
例えば共感化指数とシステム化指数はそれぞれ性差があるとされています。このような議論で気を付けるべきところは、このような統計は多くの例を集めて統計的に男女の平均値が有意に異なることを示しめしている点です。平均値は違っていても実際の特性の分布は男女で重複がかなりあり、差は小さいです。したがって一人の女性や男性をとらえて、共感性が高い、低いとは言えません。人間は白黒をはっきりさせたい傾向があるので性差の議論はしばしば「男性の特性はーーーである」、「女性の特性はーーーである」として特性の議論を単純化し、すぐ個別の例に適用してしまいがちです。これはいわゆるステレオタイプ、偏見になるだけです。したがってたとえある特性で男女の平均値に違いがあるといっても、個別の例では性別からその特性の高い低いを断定することは困難と考えたほうが良いでしょう。
Q.「4歳時の統制的行動は青年期以降も影響」とは4歳時を過ぎた後には変えられないのでしょうか
この場合の「影響する」とは多数の4歳児の統制的行動の成績がその後の青年期のある行動特性に有意な相関がみられたということです。他の性格にまつわる統計の議論同様ですが、相関や平均は、一人一人の方々の行動を規定することはありません。したがって青年後に行動特性が4歳児の時の予想から外れているケースは多数あります。変えられるか否かでいえば変えられるということになるでしょう。しかし多人数で調べると、性格特性の特徴は保存されて青年期に表れている人も多くいることを研究は示唆しています。
当日の様子