2005年10月17日 第3回サイエンスカフェ
自然の猛威 ~2004年スマトラ地震・津波~
講師:今村 文彦 東北大学大学院工学研究科 教授
プロフィール
今村教授は、数値シミュレーションを利用した警報システムの検討、津波防災技術の開発や地域での防災教育の展開、津波襲来時などでの住民避難シミュレーション開発を行っています。国の中央防災会議専門調査会のメンバーでもあり、2004年スマトラ沖地震・インド洋大津波の発生後、世界中で現地調査や復興のアドバイスなどを行うなど大活躍しています。
開催情報
開催日:2005年10月17日(月)
会場 : せんだいメディアテーク
概要
Q&A
なぜひとつの地震でP波とS波が出るのか?P波とS波はどう違うのか?
地震が起きエネルギーの開放に伴い圧力と変位の伝幡が始まります。ここには縦波と横波があります。前者がP波、後者がS波になります 。
同じ地震でも津波があるものとないもの、津波の大小があるのはなぜ?
地震により海底を上下に変化させると津波が発生します。この変化の量は、地震の深さと大きさ(断層の変位)により変わります。地震が大きくかつ表明に近い浅い場所で起こると津波が発生しやすくなります。
津波予報の大きさに比べて、実際にくる津波はたいてい小さいのはどうして?
現在の津波警報は、地域での代表値でして平均値より若干大きい値をとります。実際に観測される津波は、この予報値よりも大きい場所もあれば小さい場所もあります。ただし、地震の小さい場合には、全体的に予報値の方が大きくなる傾向があります。これは沿岸での地形や発生の機構に関係します。
明治三陸のように強い地震を感じなくても大きい津波がくるのはなぜ?
いくつか説があります。代表的な1つは、地震の破壊がゆっくりしているので、強い地震動が生じることなく、ゆっくりとした揺れになります。揺れの体感は加速度という変化が大きいほど強く感じる傾向があります。一方、地震による最終的な海底の変化は十分大きかったので、大きな津波が発生したと言うことになります。津波が特別に大きくなったというよりは、地震の揺れが弱かったと言うことになります。
日本の観測網自体も発展途上ではありますが、全地球規模の沿岸防災の観測と通報のネットワークの構築にはどの程度の経費の負担が必要となるのでしょうか?
地球規模で津波を観測するためには、圧力計などを置いて水面の変化を図ると地点での計測と衛星データを用いて平面的に水面の変化や津波による流れを計測する方法があります。前者の方が1地点のコストは安いのですが、正確に津波を知るためには、沢山の場所が必要となります。全体のコストについては、正確な情報がありません。ちなみに、海岸に設置される超音波波高計は、数千万円。GPS津波計は1,2億円、海底津波計は2~3十億円となります。
仙台は平野なのにチリ沖地震などの津波の被害が少ないのはなぜか?
過去において、三陸沖や太平洋遙か沖から発生した津波が多くあります。この場合には、宮城県の牡鹿半島が自然の防波堤になり、津波のエネルギーの進入を抑えてくれます。ただし、もし福島沖などの南側で津波が発生したとすると、この役割の効果は小さくなり、仙台平野にも大きな津波が来襲すると考えられます。実際、869年貞観地震津波の際は、多賀城も含めて仙台平野全域に津波が来襲し大きな被害を出したという記録があります。
波は上下運動なのに津波は横へ流れていくのはなぜ?
大変重要な質問です。波の表面は自由に変化します。もし、水面変化が何らかの原因で生じたとすると、そこで表面の勾配が生じ、その時に水の圧力差が生じるために水塊が押されます。これが連鎖して横方向に伝わっていきます。このような波を横波と呼びます。一方、音波などは、運動と進行方向が同じになり。これを縦波を呼びます。
津波の高さは水深の何に比例するか(2乗?3乗?)
津波の高さは、水深の1/4乗に反比例します。従って、浅い海域になるとそれだけで津波の高さは大きくなります。
シミュレーションでハザードマップを作れないか?(宮城沖の場合)
可能です。実際に、宮城県では地震被害第3次想定の中で、浸水マップを作成しています。危機対策課のHPをご覧下さい。このマップは、浸水情報だけですので、避難経路や時間などは地域で確認し、いざというときの対応(防災)に役立てて頂きたいです。また、過去の地震や津波の発生を仮定していますので。今後、実際に発生する規模や場所、発生機構が変われば、浸水結果も変化することを了解しておいて下さい。
スマトラで地震後の耐震構造の普及について知りたいです。都市部のビルだけなのか、民家にも取り入れていこうとする動きがあるかなど。また、そういう動きがあるとすれば、具体的にどう行われているかなど。
スマトラ地震後に国内での耐震構造の普及については、特に情報はありませんが、ちょうど、沿岸にある堅剛なビルを津波来襲の際の一次避難施設として利用する検討はなされています。今回のスマトラ地震津波で、建物への被害は、単に津波浸水高さだけでなく流れや波力が強く関係していることが分かりましたので、これらの効果を入れて、耐波評価をして避難ビルの指定や利用を検討できるようになりつつあります。
ハザードマップ作成の際、特にどういう点が問題となるのか?
マップ作成においては、どのような地震津波を対象とするのか?どのような情報を表示したらよいか?どのような被害が生じるのか?これに対して何が出来るのか?を議論し整理していくことが大切です。地域毎に、それぞれの対応や内容は異なりますので、住民、行政、専門家の方を交えて議論して作成することが大切です。
避難行動について、社会科学との連携について
避難行動は、3つの段階に分かれていると言われています。まず、情報収集、行動開始判断、避難行動(経路選択,危険回避,追随行動)、になります。いずれにおいても、各人が知識に対し情報を対応させながら判断するもので、心理学や情報処理学と密接な関係があります。また、災害情報システム、避難体制についても社会学とも強い関連があります。
なんで津波に興味を持ったのか?
1つは、大学4年生の時に、昭和58年日本海中部地震津波の調査に参加させて頂き、自然災害の猛威を実感できたこと。もう1つは、数値シミュレーションなどで津波情報を出し、人的被害を軽減することは意義があると思ったことです。