2009年6月26日 第48回サイエンスカフェ
北に伸びる新幹線、東北はどうなる?どうする?
講師:奥村 誠 東北大学東北アジア研究センター 教授
プロフィール
奥村先生は、「人類の発展のために不可欠な知識や意見の交換のために、人が出会う仕組みを可能にするのが交通。その素晴しさを人類全体が理解すれば戦争はなくなるはず」という信念を持ち、地理学、経済学、統計学、応用数学などを駆使しながら、都市間を結ぶ新幹線や航空サービスの使われ方、地域への影響に関する研究に20年以上取り組んでいます。最近はインターネットが交通に与える影響に興味を持っているそうです。
開催情報
開催日:2009年6月26日(金)18:00~19:45
会場 : せんだいメディアテーク
概要
現在八戸までの東北新幹線は、2010年度に青森に延び時速320kmの新型車両が登場、2015年度には函館に伸びる予定で、さらに札幌までの工事も始まっています。新幹線の開業は、都市間の交通と地域産業に大きな影響を与えますが、開業後に航空にお客さんを取られたり、地域から会社がなくなるという、期待とは違った影響が出ることもあります。今回は、このような新幹線のさまざまな影響を紹介し、東北において、今後どのように新幹線を使い、地域の発展に生かしていけばいいのかを、一緒に考えてみたいと思います。地理学、経済学と数学に関連するお話です。自然科学に関係するいつものサイエンスカフェとは、一味違った話題を楽しみください。
Q&A
どういう路線が理想的な路線と考えられるのでしょうか?
新幹線は,車両のほか途中の線路や橋,トンネルなどの施設にお金がかかるため,ある程度人口密度の高い都市が連なっている地域に向いています.一方,途中に都市がない離れた地域間を直接結ぶには,柔軟に頻度が調節できる飛行機のほうが向いています.全体的に人口が減少する今後の日本では,新幹線を支える高密度な沿線地域はなく,また新幹線の建設で人口を集めることも難しくなるので,現在工事中の路線が新幹線としては最後の路線となり,あとは既存の路線のサービスをどのように維持するかが重要となります.その際には,新幹線と空港との連絡がますます重要になります.例えば北海道新幹線の場合には札幌を終点とせずに新千歳空港まで伸ばし,欧米方面への国際線の乗り継ぎ客を集めるといった工夫が必要になるでしょう.
仙台の人々だけでなく、周辺の県も一緒に協力しないと、結局は格差を生んでしまうのではないでしょうか?
講演で取り上げたストロー効果の予測は,あくまでも「全国の都市圏に散らばる顧客を相手にする企業が東京に本社を置いている場合に,どこに支社を置くと安上がりに仕事ができるか?」という仮定で計算したものです.東京以外で事業を起こす場合や,ビジネスの相手が外国や国内の限られた地域であれば,計算結果は異なってきます. つまり,東京を中心とする全国一律的なものさしの下では,「格差」が生まれるでしょうが,重要なことは東京にない魅力,東北地方ならではの知恵を生かすようなビジネスを起こすことになると思います.
交通量の関係が万有引力に似ているのは驚いたが、本当にあの公式は成り立つのでしょうか?
講演では少し格好をつけて説明しましたが,交通量における「重力モデル」は,かなり当たり前のことを言っています.つまり,ある都市に住む人が行う交通行動が,同じ都市の他人の行動から強く影響を受けないなら,交通量の発生は都市の人口に比例するはずです.その帰りの交通を考えれば,交通量の集中も都市人口におよそ比例します.さらに,距離が遠く,時間がかかり,費用がかかる相手先には行きにくいので,交通量が少なくなるという性質があるので,結果として交通量は,2つの都市の均衡規模の積に比例して,距離または交通費用のべき乗に反比例することになります.
当日の様子