本文へ
ここから本文です

カドミウムや鉛を含まない量子ドット緑色蛍光体を開発 -スーパーハイビジョン放送に適合した広色域ディスプレイに最適-

【発表のポイント】

  • カドミウムや鉛を含まない量子ドットで単色性の高い緑色発光を世界で初めて実現した。
  • 量子ドット蛍光体は、次世代の広色域ディスプレイに最適の蛍光体だが、セレン化カドミウムや鉛を含有する材料が使用されていた。
  • セレン化カドミウムと同等のスペックを有し、有毒なカドミウムや鉛を含まない量子ドット蛍光体の開発が切望されていた。
  • 本成果は、量子ドットディスプレイをはじめ、多様な次世代広色域ディスプレイへの応用が期待される。

【概要】

東北大学多元物質科学研究所の佃諭志助教、小俣孝久教授らは、テルル化亜鉛のテルルの一部をセレンで置き換えた量子ドット注1により、単色光に近い緑色を発する蛍光体注2の開発に成功しました。量子ドットからの蛍光は単色性が高いことから、スーパーハイビジョン放送注3に適合した広い色域を達成する次世代ディスプレイへの応用が進められています。セレン化カドミウム量子ドットを蛍光体に使用した液晶ディスプレイが既に市販されていますが、カドミウムには毒性があるため、より安全な量子ドット蛍光体が強く望まれています。リン化インジウムなどの代替材料の開発が行われていますが、セレン化カドミウムと同等の単色性が実現できないという課題がありました。最近、鉛を含有するペロブスカイト化合物注4の量子ドットで、単色性の高い緑色蛍光体が報告され、ディスプレイへの応用が検討され始めていますが、鉛の毒性が懸念されています。

カドミウムや鉛を含まずに単色性の高い緑色蛍光を発する本成果の量子ドットにより、次世代広色域ディスプレイの安全性が大幅に向上するものと期待されます。

本研究成果は、2018年6月20日公開の米国化学会専門誌ACS Omega誌にオンライン掲載されました。

【用語解説】

注1_量子ドット: 直径が概ね10nm以下の半導体の単結晶。量子閉じ込め効果により量子ドット中の電子や正孔は量子化された量子準位を占有する。量子準位のエネルギーは量子ドットの大きさが小さいほど大きくなるので、電子と正孔の再結合エネルギーは小さい量子ドットほど大きい。

注2_蛍光体: 光が照射されることで結晶中の電子が励起される。この励起された電子と、電子がもともと存在したエネルギーに生じた正孔が再結合する際に放出される過剰エネルギーが光である場合、そのような光を蛍光といい、蛍光を発する物質を蛍光体という。

注3_スーパーハイビジョン放送: 国際規格では高精細度テレビ放送(High Definition Television)と呼ばれる現行のハイビジョン放送は横約2000、縦約1000の画素からなる映像で、2Kと呼ばれる。これに対して国際規格では超高精細度テレビ放送(Ultra High Definition Television)と呼ばれるスーパーハイビジョン放送は、横約4000、縦約2000(4K)、もしくは、横約8000、縦約4000(8K)の画素からなる映像で、きめ細かな美しい映像を提供する。我が国においてはNHKが2016年8月1日から、スーパーハイビジョンの技術検証と普及促進を目的に、BSで試験放送を開始しており、2018年には実用放送の開始を、2020年頃には本格的な普及を目指している。

注4_鉛を含有するペロブスカイト化合物: 強誘電体として有名なチタン酸バリウム(BaTiO3)と同じペロブスカイト型構造を有する。鉛はBaTiO3のチタンの位置を、Baの位置はセシウム(Cs)やメチルアンモニウム(CH3NH3)などの有機アンモニウムイオンが、酸素の位置は塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などのハロゲンが占有する。Ba位置を有機アンモニウムイオンが占有するものは、有機分子を含む無機結晶であることから、有機-無機ハイブリッドペロブスカイトと呼ばれる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 佃 諭志
電話: 022-217-5215
E-mail: satoshi.tsukuda.d1*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
  広報情報室(伊藤)
電話: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ