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酸素分子の電子スピンを見分ける多孔性磁石 酸素ガスの吸脱着により磁石のON-OFF制御に初成功

【発表のポイント】

  • 酸素ガスの吸脱着により、磁石のON-OFF制御に成功
  • 磁石にくっつく性質を持つ酸素が多孔性の分子磁石に吸着されると、磁石層間の磁気相互作用を媒介し、物質の磁化が消失
  • 常磁性吸着分子の持つ電子スピンを感知する、全く新しい多孔性物質の発見

【概要】

国立大学法人東北大学金属材料研究所の高坂亘 助教、宮坂等 教授らは、名古屋大学大学院工学研究科の堀彰宏 助教、松田亮太郎 教授、および京都大学物質―細胞統合システム拠点の北川進 特別教授らと共に、酸素ガスを吸脱着させることで、磁化のON-OFFが可能な新たな多孔性分子磁石*1の開発に成功しました。

今回開発された分子磁石は層状構造になっており、その層の間にガスなどの小分子を出し入れできるのが特徴です。分子性多孔性材料*2の一種でもあります。本研究では、この磁石分子に酸素が吸着すると磁化が消失、酸素を取り除くと回復することを確認し、酸素吸脱着による磁化のON-OFFスイッチが可能であることを証明しました。

本現象は、磁石の性質を持つ酸素分子が磁石層間に吸着されることで層間の磁気相互作用を媒介し、新たな磁気秩序(反強磁性磁気秩序*3)が誘起されて生じたものです。すなわち、本材料は酸素の持つ電子スピン*4を感知できる新しい多孔性磁石です。吸着酸素の持つ電子スピンを利用した材料物性の制御はこれまでに例がなく、新しい磁気秩序機構に基づく分子デバイス創製など、イノベーション創出の鍵になると期待されます。

本研究成果は、2018年12月21日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

【専門用語解説(注釈や補足説明など)】

※1 分子磁石:
日常で用いている磁石に代表されるように、多くの磁性体は合金や酸化物などの無機物で構成されています。これに対し、分子を用いて作成した磁性体を総称して分子磁性体(分子磁石)と呼んでいます。分子磁性体は無機物の磁石にはない"やわらかさ"や"設計性や機能性付加の多様性"を有しており、盛んに研究が進められています。

※2 分子性多孔性材料:
ゼオライトや活性炭、シリカゲルのような無機物のみから構成される従来の多孔性材料に対して、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料の総称です。金属―有機複合骨格(Metal-Organic Framework; MOF)や多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)などと呼称されます。金属イオンの配位環境と有機物の持つ高い分子設計性に特徴があり、ナノサイズの細孔を利用した気体吸蔵・分離・触媒・センサーなどの分野での応用が期待されています。

※3 反強磁性磁気秩序:
層間に吸着された酸素分子の磁気モーメントは、隣接する磁気モーメントと反対を向くように(反強磁性的に)相互作用します。酸素吸着状態では、層間に2分子の酸素分子が吸着されており、酸素分子に隣接する磁気モーメントを反平行になるように並べると、必然的に層の持つ磁気モーメント同士が反平行になってしまいます。このような場合、物質全体としては反強磁性体となります。

※4 電子スピン:
電子はマイナスの電荷を持ち、自転(スピン)していると考えることができます。そのため、一つ一つの電子はS極、N極を持つ棒磁石のように見なすことができます(コイルを巻いた電磁石をイメージして下さい)。スピンはしばしば、矢印によって表されます。

何も吸着していない、または窒素が吸着されると磁石の性質を保つ。磁石の性質を持つ酸素が吸着すると磁石の性質を失う。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

◆研究内容に関して
東北大学金属材料研究所 錯体物性化学研究部門 助教
高坂 亘(コウサカ ワタル)
TEL:022-215-2033
Email : w-kosaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください。)

東北大学金属材料研究所 錯体物性化学研究部門 教授
宮坂 等(ミヤサカ ヒトシ)
TEL:022-215-2030
Email:miyasaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください。)

◆報道に関して
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
冨松 美沙
TEL:022-215-2144 Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください。)

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