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2次元物質で高効率の熱電変換を実現-セレン化鉄の極薄膜化により室温で熱電性能が増大-

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発デバイス研究チームの清水直研究員(研究当時)、岩佐義宏チームリーダー(東京大学大学院工学系研究科教授)、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループは、鉄系高温超伝導体[1]のセレン化鉄(FeSe)を極薄膜化することで、熱電効果(ゼーべック効果)[2]が飛躍的に上昇することを発見しました。

本研究成果は、高度に制御されたナノ物質が、熱電変換材料として高い可能性を持つことを明確に示すものです。

物質の両端に温度差をつけると、その温度差に比例する電圧が発生する現象を熱電効果といいます。熱電効果を利用することで、排熱から電気エネルギーを取り出す熱電発電が可能となります。ナノスケールの世界では、物質の機能性の役割を担う電子の振る舞いが通常の物質での振る舞いとは著しく異なることから、熱電効果が増大すると期待されています。

今回、共同研究グループは、電気化学的手法によってFeSeの極薄膜を作製し、その熱電効果の膜厚依存性を測定しました。その結果、熱電性能を示すゼーペック係数が膜厚の減少とともに急増し、1ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)に迫る単層レベル(2次元物質)では厚膜時の数百倍に、また取り出せる電力値の指標となる熱電出力因子は約10万倍に増大することが分かりました。さらに、室温における出力因子はこれまで知られているどの熱電物質よりも大きく、低温になるにつれてさらに上昇することも分かりました。

本研究成果は、英国のオンライン学術雑誌『Nature Communications』(2月18日号)に掲載されました。

図 FeSeのナノ極薄膜とその他の物質の熱電出力因子の温度依存性の比較

補足説明

[1] 鉄系高温超伝導体
鉄とニクトゲン(もしくはカルコゲン)で構成される二次元レイヤーを基本構造に持つ、一連の超伝導体の総称。2008年2月に東京工業大学の細野秀雄教授によりLaFeAsO1-xFxが発見されたのを契機に、研究が世界中で爆発的に展開され、次々と新型鉄系高温超伝導体が発見された。現在、常圧では銅酸化物超高温伝導体に次ぐ高い超伝導転移温度を持つ。

[2] 熱電効果(ゼーベック効果) 熱電効果の一つであるゼーベック効果は、物質の両端に温度差をつけた場合,その温度差に比例する電圧が発生する現象である。温度測定によく用いられる熱電対は、この効果を利用したものである。熱電効果を利用することで廃熱から電気エネルギーを取り出すことが可能となるので、IoT時代におけるセンサネットワークの自立型電源などへの利用が期待される。またゼーベック効果の逆効果であるペルチェ効果は、電流を流すことで吸放熱を起こすことができるため、パソコンのCPUの冷却やワインセラー、またアウトドア用の保冷庫に応用されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

○研究に関すること
東北大学金属材料研究所 低温物理学研究部門 教授
塚﨑 敦
Tel: 022-215-2085
  E-mail: tsukazaki*imr.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

○報道に関すること
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
冨松 美沙
Tel:022-215-2144
E-mail: pro-adm*imr.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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