2019年 | プレスリリース・研究成果
冠動脈全長にわたる機能異常の存在:狭心症の新たな病態を解明 冠攣縮性狭心症と微小冠動脈障害が合併すると長期治療経過が悪化
【研究のポイント】
- 狭心症注1の診断のために冠動脈造影検査注2を受けた患者の約4割は、心臓の動脈(冠動脈)に狭窄や閉塞といった明らかな異常が見られない。
- このような「非閉塞性冠動脈疾患」患者では、冠動脈の機能異常(冠動脈の過収縮反応と拡張障害)が胸痛の原因となっている。
- 冠動脈機能異常に関して、同一患者で太い冠動脈と微小な冠動脈の両方を同時に検査した結果、太い冠動脈の冠攣縮性狭心症注3と微小冠動脈の拡張障害が合併すると長期治療経過が悪化することを世界で初めて明らかにした。
【研究概要】
冠動脈機能異常の原因として冠動脈過収縮反応と冠動脈拡張障害注4の2つがあり、冠動脈造影検査で明らかな狭窄や閉塞が見られない患者において、突然死や急性心筋梗塞などの発生に強く関連することが報告されています。東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川 宏明(しもかわ ひろあき)教授、高橋 潤(たかはし じゅん)講師、須田 彬(すだ あきら)医師らの研究グループは、心臓表面を走る太い冠動脈の過収縮反応である冠攣縮性狭心症と冠微小血管の拡張障害の指標である微小血管抵抗指数 注5の上昇の合併は長期予後の悪化と関連すること、また、冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数上昇に共通した原因として共通する因子(Rho キナーゼ注6の活性化)が大きく関与していることを明らかにしました。本研究は、診断方法や治療後の予測因子が未だ確立されていない冠動脈機能異常を太い冠動脈と微小冠動脈の両方で初めて明らかにした重要な報告であり、長期予後が悪化する患者の判別や新たな治療方法への応用などへとつながることが期待されます。
本研究結果は2019年11月4日に、米国心臓学会の学会誌であるJournal of the American College of Cardiology誌にオンライン掲載されました。
図1.心筋虚血の機序としての冠動脈機能異常
1.動脈硬化による物理的な狭窄:喫煙・高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病に伴う動脈硬化性プラーク(袋状にコレステロールなどが溜まったもの)の形成による血管内径の狭小化
2.太い心表面冠動脈または微小血管攣縮などの血管過収縮反応に伴う機能的な血管内径の狭小化
3.心表面冠動脈から微小血管までにおける血管拡張障害
2と3は合わせて「冠動脈機能異常」と総称される
【用語解説】
注1. 狭心症:心臓の筋肉(心筋)に供給される酸素が不足するために胸部に痛みや圧迫感が起きる病気。心臓の動脈(冠動脈)の血流の不足が原因で生じることが多い。
注2. 冠動脈造影検査:細い管(カテーテル)を血管に挿入して、冠動脈内に造影剤を注入し、X線撮影によって冠動脈の太さや狭窄などの形状を調べる検査。
注3. 冠攣縮性狭心症 (vasospastic angina; VSA):心臓表面の太い冠動脈の攣縮(痙攣して狭くなること)に伴って狭心症状を生じる疾患。多くが安静時、特に夜間から早朝に発作が起きる。薬剤で人為的に冠攣縮を誘発する試験(アセチルコリン負荷冠攣縮誘発試験)や自然発作によって診断がなされる。
注4. 冠動脈拡張障害:心臓表面の冠動脈より下流(心筋の内側)にある直径500 μm以下の微小な冠動脈(冠微小血管)は、運動時など心筋に多くの酸素が必要となった場合や心臓表面の太い冠動脈の血流が低下した場合、冠微小血管が拡張し血流を安静時の4~5倍まで増加させる能力がある。しかし、この冠微小血管の血管拡張反応が異常になると、冠動脈血流低下と心筋虚血を引き起こす。
注5. 微小血管抵抗指数 (index of microvascular resistance, IMR):冠動脈拡張障害の評価方法の一つ。冠動脈内に挿入した圧-温度センサーによって測定され、冠微小血管の血管抵抗(血流の流れ難さ)を表す。
注6. Rhoキナーゼ:細胞の収縮・増殖・遊走・遺伝子発現誘導などの細胞の生理機能に深く関与しているタンパク質。血管平滑筋においては収縮弛緩を制御する分子スイッチの役割を担う。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科循環器内科
教授 下川 宏明(しもかわ ひろあき)
電話番号:022-717-7152
Eメール:shimo*cardio.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)