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隕石中に小惑星の氷の痕跡を発見 氷が抜けてできた空間を放射光X線CTで発見

【発表のポイント】

  • 小惑星由来の炭素質コンドライト(注1)の内部を大型放射光施設SPring-8(注2)の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)のX線CTによりナノスケールで観察し、氷が抜けてできたと考えられる空間を多数発見。
  • 隕石中の氷の痕跡の分布をもとに、隕石母天体内の氷分布を推定。
  • これらの発見をもとに、小惑星が太陽系内を外側から内側へ移動しながら、氷を含む塵を集積して成長する新たなモデルを提案。

【概要】

東北大学院理学研究科地学専攻の松本恵助教と共同研究チーム(京都大学、立命館大学、中国科学院、海洋研究開発機構、高輝度光科学研究センター、ロンドン自然史博物館など)は、放射光X線CT(注3)を使って炭素質コンドライトの一つAcfer 094隕石の内部を観察し、氷が抜けてできたと考えられる小さな空間を多数発見しました(図1)。

太陽系の雪線(注4)より外側の低温領域で形成した小惑星は、形成当時、氷を含んでいたと考えられており、小惑星由来の隕石には、氷が融けて生じた水と岩石との相互作用によって形成した含水鉱物が多く見つかっています。しかし、水の素となった氷が小惑星内にどのように分布していたのかは、よくわかっていませんでした。

本研究では、小惑星の氷の痕跡(氷が抜けてできた空間)を隕石中に発見しその分布の様子を明らかにしました。氷は、雪線付近で宇宙の塵が焼結作用(注5)を受けてできた"氷とケイ酸塩粒子の塊"として小惑星に取り込まれ、その後、氷部分が融けて無くなることで今回観察されたマイクロサイズの空間が生じたと考えられます。

これらの研究成果は、2019年11月20日午後2時(米国時間、日本時間11月21日午前4時)付けで、米国科学雑誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

図1:箱型に成形した隕石試料のX線CT (8 keV)による断面像。白色の点線で囲まれた部分に、黒色の空隙が多く含まれている。もともと在った氷が抜けてできた空間と考えられる。明るい灰色~暗い灰色の物質はケイ酸塩粒子。白い物質は硫化鉄粒子。Copyright: Megumi Matsumoto et al.

【用語解説】

(注1) 炭素質コンドライト
太陽系誕生当時やそれ以前の物質を保存している隕石グループの総称であり、水や有機物を多く含んでいる。日本の探査機はやぶさ2が着陸した小惑星リュウグウは、これまでの観測から炭素質コンドライト質の物質でできていると予想されている。

(注2)大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設で、利用者支援は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8では、放射光と呼ばれる非常に強いX線を用いて生命科学・惑星科学・材料科学・産業利用まで幅広い利用研究が行われている。

(注3)放射光X線CT
高速の電子ビームが磁場の中でローレンツ力により曲げられた時に発生する光を放射光と呼び、赤外線、可視光、紫外線、X線など様々な波長の光が含まれている。本研究では、このうちX線を利用して隕石の内部構造を観察するX線CT実験を、大型放射光施設SPring-8の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)で行った。

(注4)雪線
ここでの雪線とは、太陽系内でH2Oが水蒸気から氷となる領域の太陽からの距離を指す。雪線よりも外側の低温領域ではH2Oは氷として存在する。太陽からおよそ3 AU(1 AU=地球と太陽の間の距離)の位置が雪線位置とされている。

(注5)焼結作用
太陽系の雪線より少し外側の領域では、温度上昇により宇宙の塵(氷-ケイ酸塩粒子の多孔質な集合体)に含まれる氷が昇華し、再び塵の表面に凝縮する現象が起こると予想される。ここでは、この現象を焼結作用と呼ぶ。焼結作用により、スカスカの宇宙の塵は、隙間のない氷とケイ酸塩粒子の塊に形を変える。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科
助教 松本 恵(まつもと めぐみ)
電話:022-795-5789
E-mail:m_matsumoto*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022−795−6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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