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普通の超伝導体をトポロジカル超伝導体に変換する手法を開発 - 量子計算素子の物質探索に新しい道 -

【発表のポイント】

  • 普通の超伝導体をトポロジカル超伝導体に変換する手法を開発
  • 超伝導近接効果を使わないトポロジカル超伝導の実現方法を提案
  • トポロジカル量子計算に応用できる物質の探索に新たな方向性

【概要】

トポロジカル絶縁体※1の発見を契機にして、その発展物質である「トポロジカル超伝導体※2」が注目されています。トポロジカル超伝導体では、その表面やエッジ(端)において「マヨラナ粒子※3」と呼ばれる、量子コンピュータ※4への応用が期待される特殊な粒子が存在すると予言されています。現在、世界中でトポロジカル超伝導を実現する試みが精力的に行われていますが、未だ決定的な証拠がありません。

東北大学材料科学高等研究所の佐藤宇史教授、高橋隆客員教授、同大学院理学研究科チー・トラン博士課程大学院生、大阪大学産業科学研究所の山内邦彦助教、京都産業大学の瀬川耕司教授、ドイツケルン大学の安藤陽一教授らの研究グループは、トポロジカル絶縁体TlBiSe2上に普通の超伝導体Pb(鉛)の超薄膜を作製し、その電子状態を角度分解光電子分光法という手法で詳しく調べた結果、もともとTlBiSe2の表面上にあったトポロジカル状態が、接合によってPb超薄膜側に移動し、普通の超伝導体であるPbがトポロジカル超伝導体に変化していることを発見しました。

この成果は、従来試みられてきたアプローチとは全く異なる方法でトポロジカル超伝導が実現できることを初めて明らかにしたものです。今後、本研究で見出された方法に基づいてトポロジカル超伝導体の探索を進めることで、量子コンピュータに役立つ物質材料の探索・開発が大きく進展すると期待されます。

本研究成果は、英国科学誌Nature Communicationsの2020年1月9日号で公開されました。

図1 トポロジカル超伝導実現のための接合構造の模式図
トポロジカル超伝導を実現するための、(a) 超伝導近接効果を用いる従来の方法と、(b) 超伝導近接効果を用いない本研究の方法。右図は、Pb/TlBiSe2の結晶構造。

【用語解説】

※1 トポロジカル絶縁体
固体は物質内の電子状態によって、金属、絶縁体(半導体)、超伝導体と分ける事ができますが、位相幾何(トポロジー)の概念を物質の電子状態の解析に取り入れる事で、これまでの絶縁体とは一線を画す新しい絶縁体物質として2005年に提唱されました。3次元物質では表面に、2次元物質ではエッジ(端)に、不純物の散乱に対して非常に強い電子の伝導路が形成されます。この伝導路は電子のスピンが上向きか下向きかで分かれており、これまでの物質にはないスピンの応答や制御ができることで、新しい量子現象やスピントロニクス素子開発のアプローチができる分野として、国内外で精力的な研究が行われています。

※2 トポロジカル超伝導体
通常の超伝導は、物質が臨界温度を超えて冷却されたときに起こる、電気抵抗がゼロになる現象です。超伝導状態では、電気がエネルギーを失わずに物質中を流れます。トポロジカル超伝導体では、物質内部では、通常の超伝導体と同様に超伝導ギャップが開いているのに対し、その表面や端(エッジ)に、マヨラナ粒子と呼ばれる不純物に対して頑強な電子状態が現れます。

※3 マヨラナ粒子
1937年にEttore Majorana (エットーレ マヨラナ)が理論的に提案した粒子で、粒子がそれ自身の反粒子になる特徴(粒子-反粒子対称性)を持っています。素粒子ではニュートリノがマヨラナ粒子ではないかと言われていますが、まだ決着がついていません。物質中では、ディラック方程式に従い、さらに粒子-反粒子対称性をもつとみなせる電子状態のことを指します。トポロジカル超伝導体や、磁性三角格子などのエッジ状態(物質の表面や端)に、マヨラナ粒子が発現すると考えられています。

※4 量子コンピュータ
異なる2つ以上の状態を量子力学的に重ね合わせて一度に信号処理する「量子コンピュータ」は、従来のコンピュータでは天文学的な時間のかかる素因数分解の問題などを、数時間で解くような超高速計算が可能になると考えられています。しかし、その計算の途中で、量子力学的な重ね合わせ状態が壊れないように保つ事が大変難しく、これを克服するアイデアとして、不純物に頑強なマヨラナ粒子を演算素子に利用することが提案されています。そのような環境ノイズに強い量子コンピュータは、トポロジカル量子コンピュータと呼ばれ、トポロジカル超伝導体の最も重要な応用と考えられています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学材料科学高等研究所
教授 佐藤 宇史 (さとう たかふみ)
電話:022-217-6169
E-mail:t-sato*arpes.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学材料科学高等研究所
広報・アウトリーチオフィス
萩田 悦子 (はぎた えつこ)
電話:022−217−6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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