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長寿命核分裂生成物の半減時間を9年以下に短縮 ―高速炉を用いた効率的な核変換法を提案―

【発表のポイント】

  • 高速炉を利用し4種類の長寿命核分裂生成物を効率的に短寿命化・減量
  • 新しいLLFPターゲット集合体を考案
  • LLFPターゲットおよび減速材の材料特性、製造性を実験により実証

【概要】

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、東北大学の若林利男名誉教授、東京都市大学 工学部 原子力安全工学科の高木直行教授、日本原子力研究開発機構の舘義昭博士らは、原子力発電所の放射性廃棄物に含まれる長寿命の核分裂生成物(LLFP、用語1)であるセレン(79Se)、テクネチウム(99Tc)、パラジウム(107Pd)、ヨウ素(129I)の4種について高速炉(用語2)の炉心周辺に装荷することで、数10万年から1000万年以上の半減期を有するこれらの核種が半分になるのに要する時間を9年以下に短縮する方法を見出しました。

この新LLFPターゲット集合体は、YD2およびYH2減速材(用語3)を組み合わせ、さらにLLFPのテクネチウムを熱中性子フィルター材料として使うことにより、隣接する燃料集合体の熱スパイク(用語4)を抑制しつつ、効率的な核変換を行うことができます。本方式はLLFPの同位体分離を要さないことも特徴です。

4核種の新LLFPターゲット集合体をナトリウム冷却MOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物)高速炉のブランケット領域に装荷した場合、サポートレシオ(SR、用語5)1以上を確保しつつ、約8 %/年の高い核変換率が達成できます。またLLFPターゲット、YH2およびYD2減速材の材料特性と製造の実験を通じLLFPターゲット集合体の実現性が明らかとなりました。さらに、今後の効果的な再処理方法の実現により、これらの核種量を最終的に1/100程度まで低減させる可能性が拓かれました。

文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業原子力システム研究開発事業により東工大が委託を受けた「高速炉を活用したLLFP核変換システムの研究開発」の成果で、成果は「Scientific Reports」に2019年12月16日にオンライン掲載されました。

【用語解説】

(1)核分裂生成物(LLFP):
Long Lived Fission Products の略。使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物のうち、特に半減期の長いセレン(79Se、半減期33万年)、ジルコニウム(93Zr、同153万年)、テクネチウム(99Tc、同21万年)、パラジウム(107Pd、同650万年)、スズ(126Sn、同23万年)、ヨウ素(129I、同1570万年)、セシウム(135Cs、同230万年)の7核種を示す。本研究では、このうち135Cs、126Sn、93Zrを除く4核種を短半減期(または安定核種)に高核変換するシステムを提案した。

(2)高速炉:
核分裂で発生する中性子を減速させることなく次の核分裂に利用する原子炉。特にプルトニウムにおいて、核分裂の起きる中性子のエネルギーが高いほど吸収された中性子あたりに発生する中性子が多く、また燃料以外への中性子吸収が減少する。その分、原子炉の運転維持以外に利用できる余剰中性子が増し、核燃料の増殖や不要核種の変換に回すことが可能である。

(3)減速材:
核分裂で発生する中性子と衝突して中性子のエネルギーを減らすために用いられる物質。一般に中性子捕獲断面積や核分裂断面積は核分裂で発生する中性子の持つエネルギーより低いエネルギーで大きいため、中性子エネルギーの調整のために用いられる。YH2は水素化イットリウム、YD2は重水素化イットリウム。

(4)熱スパイク:
高速炉では核分裂中性子を減速せずに使用するのが通常だが、今回の研究のように炉心に減速材を入れるとそれによってエネルギーの低い中性子が増える。熱スパイクはそれに伴う核分裂の増加によって局所的に発熱量が増える現象。熱スパイクがあると原子炉全体の出力が制限を受け、発電量や核変換量に悪い影響を及ぼす。

5)サポートレシオ(SR):
サポートレシオは、原子炉内で同じ期間に核燃料で生成されたLLFPの量に対する変換されたLLFPの量の比として定義される。これが1以上であれば当該物質を減少させることが可能。

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問い合わせ先

東北大学 総務企画部広報室
Tel:022-217-4816
E-mail:koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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