本文へ
ここから本文です

マルチビームX線タイコグラフィを実証 -放射光を高い効率で利用し観察視野を広げる-

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター理研RSC-リガク連携センターイメージングシステム開発チームの高橋幸生チームリーダー(東北大学多元物質科学研究所教授、大阪大学大学院工学研究科招へい教授)、広瀬真研修生(大阪大学大学院工学研究科博士後期課程)らの共同研究グループは、放射光マルチビームを用いたX線タイコグラフィ[1](マルチビームX線タイコグラフィ)の実証に成功しました。

本研究成果は、放射光を高い効率で利用でき、単一ビームを用いた従来法よりも広い視野で試料を観察できるといった特長があるため、さまざまな試料の広視野・高分解能イメージングへの応用が期待できます。

部分的コヒーレント[2]な光源である放射光を利用したX線タイコグラフィでは、放射光の利用効率が大きく制限され、X線タイコグラフィの性能向上の妨げとなっていました。

今回、共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」[3]において、複数の開口を持つ多重スリットと全反射集光鏡を用いて形成した集光X線マルチビームを試料に同時に照射し、複数カ所からの回折強度パターンを取得しました。回折強度パターンに全変動正則化[4]を組み込んだ位相回復計算[5]を実行した結果、試料像の再構成に成功しました。本手法では、開口数(ビーム数)に比例して放射光の利用効率が向上するという利点があります。

本研究は、米国の科学雑誌『Optics Express』のオンライン版(1月8日付)に掲載されました。

図 マルチビームX線タイコグラフィによる広視野・高分解能イメージングの概念図

【用語解説】

[1]X線タイコグラフィ
コヒーレントX線回折イメージング手法の一つ。X線照射領域が重なるように試料を二次元的に走査し、各走査点からのコヒーレント回折パターンを測定する。そして、回折パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する手法。

[2] 部分的コヒーレント
ビーム全体に対して光が完全に可干渉(コヒーレント)である場合と、完全に非可干渉である場合の中間の状態。

[3] 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。

[4] 全変動正則化
試料構造が滑らかであることを先験情報として解析に利用すること。自然画像の多くは、構造が平滑な傾向にある。

[5] 位相回復計算
光の強度情報から光の位相情報を回復する計算。反復法が用いられることが多い。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
FAX:022-217-5835
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ