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呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナウイルスの炎症を抑える仕組み

【発表のポイント】

  • 風邪の症状を引き起こす風邪コロナウイルス注1に感染すると、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患注2や気管支喘息が悪化する。
  • 気管支拡張薬や吸入ステロイド薬(呼吸器疾患吸入薬注3)は、ヒト由来の培養細胞(気道上皮細胞注4)において風邪コロナウイルスの感染によるウイルス増殖と炎症を誘導する物質の放出を抑えた。
  • 呼吸器疾患吸入薬のこれらの効果が、風邪コロナウイルス感染時における慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の悪化に対する予防に貢献していると考えられる。

【研究概要】

風邪の症状を引き起こす風邪コロナウイルスに感染すると、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息が悪化する場合があります。東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座の山谷睦雄(やまや むつお)教授らの研究グループは、一般に使用されている呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナウイルスの増殖と炎症を誘導する物質の放出を抑えることを明らかにしました。呼吸器疾患吸入薬のうち、気管支拡張薬は細胞表面のウイルス粒子受容体を減らすことでウイルスの吸着を抑え、また、ウイルス粒子の細胞内への取り込みに必要な構造(酸性エンドソーム注5)の量を減らすことで、結果的にウイルスの増殖を抑えていることが明らかになりました。さらに、呼吸器疾患吸入薬は、慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息を悪化させる炎症を引き起こす物質の放出を抑えました。呼吸器疾患吸入薬のこれらの効果が、風邪コロナウイルス感染時における慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の悪化に対する予防に貢献していると考えられます。

本研究成果は日本呼吸器学会の英文誌『Respiratory Investigation』の電子版に、2月21日に発表されました。

*本研究で使用した風邪コロナウイルスは新型コロナウイルスとは異なるものです。

【用語解説】

注1. 風邪コロナウイルス:風邪コロナウイルスはRNAウイルスの一種で、風邪症候群を生ずる病原性の低いウイルス。新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスとは別のタイプのウイルスである。新型コロナウイルスが流行する以前は、ヒトコロナウイルスは、病原性の低い風邪コロナウイルスと病原性の高いSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスに分類されていた。新型コロナウイルスは病原性の高いSARSコロナウイルスに遺伝的に近いと報告されている。

注2. 慢性閉塞性肺疾患:COPD(chronic obstructive pulmonary disease)と呼称されることが多い。日本人の場合、主にタバコ煙の長期曝露が原因で生じる肺疾患で、気道の空気の流れが制限され気流閉塞を生ずる。気管支に病変を生ずる末梢気道病変と肺胞が破壊される気腫性病変が混在する。身体を動かした際の呼吸困難や慢性の咳・痰が主な症状である。従来は、末梢気道病変が強い場合は「慢性気管支炎」の診断名が使用されていた。このような患者では喀痰の症状が強い。気腫性病変が強い場合は「慢性肺気腫」の診断名が使用されていた。

注3. 呼吸器疾患吸入薬:呼吸器疾患の治療に用いられる薬剤の中で吸入によって使用される薬剤。今回の研究では、慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息で使用される、長時間作用性β2アドレナリン受容体刺激薬(β2アドレナリン受容体刺激薬)、長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(ムスカリン受容体拮抗薬)および吸入ステロイド薬が該当する。β2アドレナリン受容体刺激薬およびムスカリン受容体拮抗薬は気管支拡張薬に分類される。ほかに、喀痰調整薬(去痰薬)も吸入して使用されることがある。

注4. 気道上皮細胞:鼻腔や気管、気管支などの空気の通り道は気道と呼ばれる。気道を構成する細胞のうちで、空気が通る気道の内側表面を覆う細胞が気道上皮細胞である。ウイルス受容体を細胞表面に発現しており、受容体にウイルスが吸着することで、ウイルスの増殖と細胞外への放出がもたらされる。

注5. 酸性エンドソーム: コロナウイルスやライノウイルス、インフルエンザウイルスなどでは、ウイルスはエンドソームと呼ばれる構造体に取り込まれ細胞内に入る。水素イオンの移動により内部が酸性になったエンドソームが酸性エンドソームである。酸性エンドソームでウイルス粒子の外側の蛋白が構造変化を生じることで、ウイルス粒子内部のRNA遺伝子が細胞質に放出されてウイルスが増殖・細胞外放出される経路に繋がる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
先進感染症予防学分野
教授 山谷 睦雄(やまや むつお)
電話番号:022-717-7184
Eメール:myamaya*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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