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室温・ゼロ磁場で世界最高の磁気熱電効果を実現する鉄系材料

【発表のポイント】

  • 鉄にアルミやガリウムを添加した材料で鉄単体より20倍の磁気熱電効果の増大を発見するとともに、薄膜でも性能を維持し、室温・ゼロ磁場で世界最高の磁気熱電効果を実現しました。
  • 高速自動計算(ハイスループット計算)による材料探索や、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルな電子構造の解明など、本研究の発見には数値計算が大きく貢献しました。
  • 同一面積・温度差当たりの発電容量は従来型熱電技術を凌駕するほど大きく、薄膜型熱電デバイスへの発展が期待されます。

【発表概要】

東京大学物性研究所の酒井明人助教、Taishi Chen特任研究員、肥後友也特任助教、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・物性研究所およびトランススケール量子科学国際連携研究機構の中辻知教授らの研究グループは、金沢大学の見波将博士後期課程大学院生(研究当時)、石井史之准教授(理化学研究所客員研究員)、東北大学大学院理学研究科物理学専攻の是常隆准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所チームリーダー)、物性研究所・トランススケール量子科学国際連携研究機構の三輪真嗣准教授らの研究グループと協力して、鉄を含む汎用材料で鉄単体より20倍大きな磁気熱電効果(=異常ネルンスト効果、注1)が得られることを発見しました。

磁気熱電効果は従来の熱電変換と異なり、温度差と垂直方向に発電し、大面積化やフレキシブル化が容易で、高効率で発電が行えるという利点を持ちます。本研究により、鉄にアルミやガリウムといった元素を添加することで、鉄単体の場合より20倍大きな磁気熱電効果が得られることを発見しました。特に鉄やアルミは地球上の資源として豊富で、廉価な材料であり、このような汎用材料での巨大な磁気熱電効果の発見はその実用化に向けて大きなブレイクスルーとなります。また、同一面積・温度差当たりの発電量は従来技術を凌駕しており、薄膜型デバイスへの発展が期待されます。

本研究開発における材料探索には、まず、東北大学を中心として第一原理計算(注2)を用いた磁気熱電効果を自動的に計算するハイスループット計算手法を開発し、磁気熱電効果の理論値をデータベース化しました。その中から、安価かつ工業的にも利用しやすい鉄系材料に着目して材料の作製と実験を行いました。その結果、本材料の発見につながりました。また、この材料の性能理解のため、金沢大学および理化学研究所で電子状態の詳細な解析が行われました。その結果、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルなバンド構造(注3)に由来していることが明らかになり、今後の材料開発の指針が明らかとなりました。

本成果により磁気熱電効果を利用した熱電変換デバイスの開発が加速し、IoT機器(注4)の自立電源などに利用されることが期待されます。

本成果はNatureオンライン版(4月27日)に掲載されました。

図 今回開発に成功した磁気熱電材料の外観(奥:薄膜材料、手前:バルク材料)

【用語解説】

(注1)従来型熱電技術(ゼーベック効果)と磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)
物質に温度差を加えると、電流の運び役となる電子(キャリア)が温度差に沿って移動するため、温度差と同じ方向に起電力が生じます(ゼーベック効果)。一方、磁性体では磁化の存在のためキャリアの移動が曲げられ、磁化と熱流に垂直方向にも起電力を示します(異常ネルンスト効果)

(注2)第一原理計算
第一原理計算は実験で得られた値を用いず、結晶構造のみから量子力学に基づいて物質の電子状態や物性を計算する手法です。物質の本質的な振る舞いを予言、解明するのに大変有効です。

(注3)トポロジカルなバンド構造、ノーダルウェブ
電子の持つ波数(運動量)により電子の状態を表したものをバンド構造といいます。トポロジカルなバンド構造とは2つのバンドが(偶然ではなく)何らかの対称性の存在により交差しているものを言います。そのような場合、対称性を破ることでしかバンド交差をほどくことができないため、「トポロジカルに守られている」とも言われます。点で接するものに、ワイル半金属やディラック半金属、線で交差するものにノーダルライン半金属などがあります。「ノーダルウェブ」はノーダルラインが複数交わり、かつ平坦な形状をしている場合のことを指します。

(注4)IoT機器
IoT(Internet of Things、モノのインターネット)を通じてやり取りをするセンサーやカメラなどの情報取得機器の総称です。

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問い合わせ先

(研究内容に関すること)
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
准教授 是常 隆(これつね たかし)
E-mail:koretsune*cmpt.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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