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多発性硬化症における新たな自己抗体関連免疫病態の解明と疾患概念の確立 -原因となる自己抗体の種類に応じた治療法開発の必要性-

【研究のポイント】

  • 多発性硬化症に代表される脱髄性疾患注1の多くは原因不明であるが、新しく発見された自己抗体による脱髄性疾患の免疫学的病態が、急性散在性脳脊髄炎注2の病態と同様の病理学的特徴があることを示した。
  • この病理学的特徴は、代表的な脱髄性疾患である多発性硬化症注3や視神経脊髄炎注4とは異なることを明らかにした。
  • 多様な症状を示す脱髄性疾患においては、原因となる自己抗体の種類によって治療法が異なり、治療経過が大きく左右されることから、疾患を引き起こす仕組みの違いが明らかになったことは大きな意義を持つ。

【研究概要】

脱髄性疾患は、神経繊維を電気的に絶縁している髄鞘と呼ばれる絶縁体が脱落し、神経信号の伝達に障害をきたす疾患です。東北大学大学院医学系研究科の高井良樹助教、三須建郎講師、青木正志教授を中心とする研究グループは、脱髄性疾患のうち、髄鞘に存在するタンパク質(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)に対する自己抗体が原因で血管周囲の神経繊維の脱髄が生じる一群の疾患が、急性散在性脳脊髄炎と似た特徴を持つことを初めて報告しました。本研究は、代表的な脱髄性疾患である多発性硬化症や視神経脊髄炎と異なる別の病態を示す脱髄性疾患の存在を明らかにしたもので、脱髄性疾患の全体像を大きく変える発見です。今後、それぞれの疾患の治療法の開発にも大いに貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年5月15日(現地時間)に、英国神経学会雑誌Brain誌(電子版)に掲載されました。

図1.MOG抗体関連疾患の免疫病態とアクアポリン4抗体関連視神経脊髄炎との違い
アクアポリン4(AQP4:図の右側)抗体が関連する視神経脊髄炎においては、抗アクアポリン4抗体が脳と血管を隔てるバリアー(血液脳関門)に存在するアクアポリン4に接着し、バリアーが損傷されることで、二次的に髄鞘を構成する細胞が傷害されると、髄鞘の遠位側(髄鞘の最内側)から脱髄が生じる。
一方、MOG抗体関連疾患(MOG:図の左側)では、リンパ球(CD4陽性細胞)が血管周囲に浸潤し血液脳関門が傷害されると、自己抗体が組織内で髄鞘表面のMOGに接着し、さらにマクロファージによる貪食作用を受け、特徴的な血管周囲性の脱髄が引き起こされることが判明した。

【用語解説】

注1. 脱髄性疾患:神経線維を覆う髄鞘に対して炎症が生じることにより、神経繊維は保たれたまま髄鞘が選択的に脱落する疾患の総称。何らかの原因で自己の免疫が髄鞘を攻撃することで起こると考えられています。多発性硬化症がその代表的疾患ですが、多くは原因不明です。その他には急性散在性脳脊髄炎や同心円硬化症などもあります。

注2. 急性散在性脳脊髄炎:脳内に多発する散在性の脱髄病変が特徴で、主に感冒やワクチン接種後に脳症や視神経炎、脊髄炎などを急性に発症する脱髄性疾患。近年、特に小児の症例の約半数に髄鞘のタンパク質(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)に対する自己抗体があると示唆されている。

注3. 多発性硬化症:脱髄性疾患の代表的疾患。再発と寛解(症状が収まること)を繰り返し、急性炎症および慢性進行性の脱髄が起こる。もともとの多発性硬化症の定義には様々な症状が含まれていたことから複数の疾患が混在していたと考えられ、近年、別の疾患として区別される疾患が増えている。

注4. 視神経脊髄炎:主に視神経炎や脊髄炎を起こす急性炎症性疾患。古くから多発性硬化症との異同が議論されてきた。2004年に、特異的な自己免疫抗体として抗アクアポリン4抗体が同定され、髄鞘ではなくアストロサイトを標的とする疾患と判明したことから、多発性硬化症とは区別される疾患となった

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学病院脳神経内科学
講師 三須建郎(みすたつろう)
電話番号:022-717-7189
Eメール:misu*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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