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省エネルギーに資する窒化ガリウム単結晶基板の量産法を開発 -次世代パワーエレクトロニクスの実現に道-

【発表のポイント】

  • 2インチ以上の窒化ガリウム*1単結晶基板を量産できる結晶作製法を開発
  • 反りが殆ど無く(曲率半径約1.5 km)モザイクも極めて少ない結晶性と、励起子*2による発光を呈する高純度な窒化ガリウム単結晶基板を作製可能
  • 高品質な窒化ガリウム基板の供給により次世代パワーエレクトロニクスに貢献

【概要】

持続可能な社会を実現するためには電力の変換効率を向上させることが喫緊の課題です。注目すべきその解決方法は、電力制御を担う高周波パワートランジスタ*3の半導体材料を、従来の珪素から窒化ガリウム(GaN)に置き換えることです。しかし現状では、高性能GaNトランジスタの土台になりうる高品質なGaN単結晶基板の入手は非常に困難であるため、リーク電流*4が少なく信頼性が高いGaNトランジスタの作製は困難です。

東北大学多元物質科学研究所 秩父重英 教授らは、株式会社日本製鋼所、三菱ケミカル株式会社と協力し、反りがほとんど無い、大口径且つ高純度なGaN単結晶基板の量産を行える低圧酸性アモノサーマル法*5の開発に成功しました。

本成果は、科学雑誌Applied Physics Expressにて2020年4月17日にオンライン公開されました。

図1. GaNを用いた縦型パワートランジスタの模式図。

【用語解説】

*1. 窒化ガリウム(GaN)
ガリウムと窒素から成る化合物半導体。GaN、およびInNとGaNの混晶(InGaN)は青色発光ダイオードおよび青色レーザ等の発光デバイスの基幹材料として実用化されています。近年、半導体としての性能の限界を迎えつつある珪素の代替材料として、炭化珪素、GaN、ダイヤモンド等が注目されています。なかでも、GaNは広い禁制帯幅(3.4 eV)、高い絶縁破壊電界(3.3 MV cm-1)、速い飽和電子速度(2.5×107 cm s-1)などの物性を有するため、高出力かつ高周波で動作する電子デバイスへの応用が期待されています。

*2. 励起子
半導体や絶縁体の中で、伝導電子と正孔の対がクーロン引力により束縛しあった量子。不純物や欠陥が少なく、結晶の周期性が高いGaNのフォトルミネッセンススペクトルからは、励起子遷移に関わる発光ピーク群が明瞭に観察されます。

*3. 高周波パワートランジスタ
携帯電話の基地局、レーダー、通信衛星等における大容量・高速通信を実現するための電力変換・増幅器。GaNは、他の材料では難しい高出力(kWクラス)かつ高周波数(1 GHz ~ 100 GHz)の領域におけるデバイス応用が期待されています。

*4. リーク電流
デバイスの縦方向に電流が流れる縦型パワートランジスタにおいて、縦方向に伸びる結晶欠陥(貫通転位など)が存在することにより、電流OFF時にも欠陥を起点にして電流が流れてしまうこと。デバイスの誤動作につながります

*5. 低圧酸性アモノサーマル(Low-pressure acidic ammonothermal; LPAAT)法
通常の温度・圧力では溶解しない溶質を、高温・高圧の超臨界流体中に溶解させ、炉内の温度勾配に応じた溶解度差を利用して種結晶上に溶質を再結晶させるソルボサーマル法の一種です。使用する溶媒に応じてハイドロサーマル(水熱)法やアモノサーマル(安熱)法などと呼ばれます。超臨界アンモニア中へのGaNの溶解を促進させる鉱化剤として、アルカリアミド(MNH2, M=Li, Na, K)などの塩基性鉱化剤、ないしはハロゲン化アンモニウム(NH4X, X=Cl, Br, I)などの酸性鉱化剤を用います。東北大学では酸性鉱化剤を用いる酸性アモノサーマル法の開発を行ってきました。また、高圧の超臨界流体アンモニアを用いた酸性アモノサーマル法(SCAATTM)は既に実用化されていますが、高圧であるため超大型炉への適用は困難です。そこで本研究では、超大型炉に適用可能な低圧条件での酸性アモノサーマル法(LPAAT法)を開発しました。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
担当:教授 秩父重英
電話:022-217-5363
E-mail:chichibu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
同研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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