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腹膜転移を有する膵がんに対する腹腔内投与併用療法の多施設共同臨床試験を実施 -膵がん腹膜転移の患者さんに希望の光を 新しい治療法の挑戦へ-

【発表のポイント】

  • 消化器がんにおける「腹膜転移」では、がん細胞が既に腹腔内に散らばってしまい有効な治療法がありません。特に、消化器がんの中でも極めて治療成績が不良である膵がんにおいては、その克服が喫緊の課題と考えられています。
  • 国内屈指のハイボリューム・センターが参加して、腹膜転移を伴う膵がん患者さんに対してゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法に加え、パクリタキセルの腹腔内投与を併用する治療法を考案し、有効性と安全性を評価する臨床試験を実施しました。
  • その結果、大きな副作用もなく高い治療効果を得ることができ、特に17%の患者さんには手術可能となり切除が行えました。この治療法は腹膜転移を伴う膵がん患者さんに対して有望な治療法の開発であると考えられます。

【概要】

関西医科大学外科学講座里井 壯平(さとい そうへい)診療教授(研究代表者)、名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学の小寺泰弘(こでら やすひろ)教授、山田 豪(やまだ すぐる)講師、富山大学の藤井 努(ふじい つとむ)教授らを中心とした研究グループ(東北大学、北海道大学、広島大学、愛媛大学を含む7大学)は、腹膜転移※1を伴う膵がん(ステージ4)に対してゲムシタビン・ナブパクリタキセル※2療法に加え、パクリタキセル※3の腹腔内投与を併用するというオリジナルの治療法を考案し、国内で多施設共同臨床試験を実施しました。ステージ4の膵がんに対してはゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法が標準治療とされていますが非常に生命予後が厳しいため、これに加え、患者さんに腹腔ポートを造設してパクリタキセルを直接腹腔内に投与する治療法です。Phase Iとしてこれらの抗がん剤の用量規制毒性※4を評価して推奨用量を設定した後、Phase IIとして46名の患者さんが登録されました。この臨床試験の主要評価項目は1年全生存割合であり、副次評価項目は抗腫瘍効果、症状緩和効果、安全性、全生存割合が評価されました。治療成功期間※5中央値は6.0ヶ月であり、治療奏功率※6は49%、病勢コントロール率※7は95%と非常に高い治療効果が得られました。がん性腹水は40%の患者さんで消失し、陽性であった腹水のがん細胞は39%で陰性になりました。生存期間中央値は14.5ヶ月、1年全生存割合は61%でした。従来、腹膜転移を伴う膵がん(ステージ4)は手術を行うことが困難でしたが、この治療法によって腹膜転移が消失して最終的に膵がんの切除まで行えた患者さんは17%であり、切除できなかった患者さんと比較して明らかに生存成績は良好でした。この治療法の血液学的な副作用は76%、非血液学的な副作用は15%と高めでしたが、治療中に大きなトラブルなく管理できました。以上の結果から、これまで有効な治療法がなかった腹膜転移を伴う膵がん(ステージ4)に対して、ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法とパクリタキセル腹腔内投与併用療法は有望な治療法であると考えられ、難治性膵がんの治療成績を向上させることが期待されます。

本研究成果は、 2020 年 7 月8日付(日本時間13時)国際科学雑誌British Journal of Surgeryに掲載されました。

【用語解説】

※1 腹膜転移
消化器にできたがんが原発臓器から腹腔内に広がる遠隔転移のこと

※2 ゲムシタビン・ナブパクリタキセル
現在、切除不能膵がんに対する標準化学療法であり、2剤を併用する点滴治療

※3 パクリタキセル
抗がん剤の1種、腹腔内投与には有効と言われている

※4 用量規制毒性
新規抗がん剤を患者さんに投与する際に、これ以上の増量ができない理由となる毒性(有害事象)のこと

※5 治療成功期間
原病の増悪、治療の副作用、およびあらゆる死亡を含めてすべての理由により治療が中断された場合の中断までの期間

※6 治療奏功率セル
CR(完全奏効)とPR(部分奏効)の合計

※7 病勢コントロール率
CR(完全奏効)とPR(部分奏効)の合計である治療奏効率に腫瘍の大きさが変化しない状態であるSD(安定)を加えた割合のこと

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問い合わせ先

東北大学病院 広報室
TEL:022-717-7149
FAX:022-717-8931
E-mail:pr*hosp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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