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電子挙動の直接観察を相対性理論と対比 -電荷保存則と電子波干渉を相対性理論の場を通した考察-

【概要】

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発現象観測技術研究チームの進藤大輔チームリーダー(東北大学名誉教授)と東北大学多元物質科学研究所電子線干渉計測研究分野の赤瀬善太郎講師らの共同研究チームは、電子の波動性を利用した「電子線ホログラフィー[1]」技術を発展させ、各種の絶縁材料表面における電荷の移動を電場の乱れから、またスピン偏極[2]の様子を磁束の変化から直接観察することに初めて成功しました。

本研究成果は、材料の電磁気的特性の理解とその改良に役立つだけでなく、素粒子としての電子が示す複雑な量子現象の理解に貢献すると期待できます。

今回、共同研究チームは、電子挙動の直接観察を通して、電子の電荷保存則[3]がナノメートル(10億分の1メートル)スケールで成立し、マックスウェル方程式[4]で記述される電磁場が、特殊相対性理論[5]と整合することを証明しました。一方、観察手法に用いた電子のマイクロメートル(100万分の1メートル)スケールに及ぶ波動性は、電荷には依存せず、量子として電子のド・ブロイ波長[6]を構成する質量や運動量に依存し、その場は、一般相対性理論[5]に基づくアインシュタインの場の方程式によって取り扱われるべきであることを指摘しました。

本研究は、科学雑誌『Materials Science and Engineering: R: Reports』 のオンライン版(7月8日付)に掲載されました。

集束イオンビーム加工されたチタン酸バリウムの走査電子顕微鏡像(a)と劈開後の振幅再生像(b)

【用語解説】

[1] 電子線ホログラフィー
電子の波動性を利用し、物体を通過した波と真空中を通過した波を重ね合わせた干渉縞(ホログラム)を撮影し、フーリエ変換を用いた演算処理により、物質内外の電磁場の分布をナノメートル(10億分の1メートル)スケールで画像化できる最先端の電子顕微鏡法。

[2] スピン偏極
素粒子である電子は、電荷のほか、角運動量(h/4π)に対応して、磁気モーメントを持っており、スピン磁気モーメントと呼ばれる。通常、このスピン磁気モーメントが示す方向は、電子ごとにランダムな方向を向いているが、外部から磁場を加えると、この磁場により磁気モーメントの方向がそろう現象を指す。

[3] 電荷保存則
閉じた系内での電荷の総和(プラス電荷とマイナス電荷の総量)は、時間が経過しても、化学反応や素粒子の生成・消滅の前後においても不変であるという法則。

[4] マックスウェル方程式
マックスウェル-ヘルツの電磁方程式とも呼ばれ、電磁場の時間的・空間的変化を記述する基礎方程式である。電磁気に関する法則(ファラデーの法則、アンペールの法則、クーロンの法則、および磁束は湧き出しがなく閉じていること)に対応する四つの微分方程式からなる一組の基礎方程式として定式化されている。

[5] 特殊相対性理論、一般相対性理論
特殊相対性理論は、慣性運動する観測者が電磁気学的現象および力学的現象をどのように観測できるかを記述する理論である。一方、互いに加速度運動を行う一般座標系にも拡張し、重力場も含めあらゆる座標系に対し全ての物理法則を同じ形で記述するのが一般相対性理論である。

[6] ド・ブロイ波長
波動性を示していた光が粒子性を示したことに対し、粒子と考えられた電子などの物質が波動性を示すとしてルイ・ド・ブロイによって提唱され、その波動の性質の一つである波長をド・ブロイ波長と呼ぶ。

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
赤瀬 善太郎(あかせ ぜんたろう)
TEL:022-217-5171
Mail:zentaro.akase.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室(伊藤)
TEL:022-217-5198
Mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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