2020年 | プレスリリース・研究成果
電場で誘起される旋光性を用いて結晶に内在する「時計回り、反時計回り」構造の空間分布を可視化
【発表のポイント】
- 結晶に内在する「時計回り、反時計回り」構造の共存状態(強軸性ドメイン)を可視化
- 強軸性ドメインを光学的に観測する手法を確立
- 強軸性物質を用いた新規な光学素子などの開発に期待
【概要】
東京大学大学院新領域創成科学研究科、同大学院工学系研究科、東北大学多元物質科学研究所、同学際科学フロンティア研究所、株式会社村田製作所の共同研究グループは、結晶に内在する「時計回り、反時計回り」構造の共存状態(強軸性ドメイン)を可視化することに成功しました。
結晶構造に内在する原子配置の回転歪みで特徴づけられる秩序を持つ物質は「強軸性」(注1)物質と呼ばれ、左右2つの回転状態を識別・制御することで強磁性体(注2)や強誘電体(注3)などのようにメモリや光学素子といった応用への可能性が期待できます。しかしながら、強軸性物質においては、強磁性体や強誘電体などに共通して現れるドメイン(注4)の観測はこれまで報告がありませんでした。
本研究では、電場変調イメージング技術(注5)を応用した光学的手法および走査型透過電子顕微鏡(STEM、注6)と収束電子回折(CBED、注7)を組み合わせた手法によって、強軸性ドメインを可視化することに初めて成功しました。強軸性ドメイン観測を可能とする測定手法が確立されたことにより、新たな物性としての強軸性に関する研究が加速し、さらには強軸性物質を用いた新規な光学素子などの開発につながることが期待されます。
図1.電場が印加されたNiTiO3における電場誘起の旋光角の変化(電気旋光効果)を表す概念図。時計回りおよび反時計回り構造を持つそれぞれの強軸性ドメインでは、電場誘起の旋光角の符号が反転する
【用語解説】
(注1)強軸性
結晶構造に内在する原子配置の回転歪みで特徴付けられる秩序状態。強磁性や強誘電性といった既存の強的秩序物性に加わる新たなものとして提案されている。英語では「ferroaxial」という学術用語が使われているが、対応する日本語の学術用語がないため、本稿では「強軸性」という造語を使用した。
(注2)強磁性体
物質中の磁性に関与する原子または電子の磁気モーメントが同じ方向に配列し、自発磁化を形成する磁性を強磁性といい、強磁性を示す物質を強磁性体という。
(注3)強誘電性
電界が印加されていない状態でも電気分極を持ち、かつ外部電界の向きに応じて電気分極の向きを可逆的に反転できる性質のことを強誘電性といい、強誘電性を示す物質を強誘電体という。
(注4)ドメイン
強磁性体(強誘電体)の内部では、一般に、磁化(自発分極)の向きが互いに180度反転した2種類の領域に分かれていることが知られている。これを磁気(強誘電)ドメインと呼ぶ。強軸性物質の内部では、回転方向の異なる2種類の領域が強軸性ドメインに対応する。
(注5)電場変調イメージング
撮像対象に電場を加えたときに像に生じるごく僅かな変化をCMOSカメラなどのイメージセンサを用いて超高感度な一括計測により捉えることで、通常の光学像の撮影では識別し得ない像を浮かび上がらせることを可能とする技術。
(注6)走査型透過電子顕微鏡(STEM)
集束レンズによって細く絞った電子線プローブを試料上で走査し、各々の点で透過してきた電子線の強弱を検出し、観察対象内の電子透過率の空間分布を観察するタイプの電子顕微鏡。
(注7)収束電子回折(CBED)
円錐状に収束した電子線を試料に入射し、ナノメートル程度の微小領域から回折図形を得る方法。通常の電子回折では得られない結晶の対称性、歪み、格子欠陥、静電ポテンシャルおよび電子密度分布などの結晶構造に関するさまざまな情報を得ることができる。
問い合わせ先
東北大学学際科学フロンティア研究所
広報担当 鈴木一行
TEL:022-795-4353
E-mail:suzukik*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)