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巨大なスピンホール効果を示す非平衡銅合金を発見 〜低消費電力スピンオービトロニクス素子へ道〜

【発表のポイント】

  • 非磁性合金におけるスピンホール効果(電流を流すと横方向にスピンが流れる現象)を、効率的なコンビナトリアル実験手法を活用して広い組成領域で一括評価。
  • 銅とイリジウムの合金において、巨大なスピンホール効果が現れる非平衡合金が存在することを発見。
  • エレクトロニクス素子製造プロセスとの相性が良いCu基合金において、これまでの重金属を主とするスピンホール効果材料に匹敵する性能を実証。

【概要】

スピンの流れ(スピン流(※1))を積極的に利用し、磁石の方向で情報を記憶するスピントロニクス素子が次世代デバイスとして期待を集めています。

東北大学金属材料研究所の関剛斎准教授および高梨弘毅教授の研究グループは、物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点の内田健一グループリーダーの研究グループと共同で、材料の高速スクリーニング手法とスピンホール効果の定量評価技術を駆使し、新しいスピンホール効果(※2)材料を探索し、単体元素では極めて小さなスピンホール効果しか示さない銅(Cu)とイリジウム(Ir)から構成されるCu-Ir合金で、これまで見過ごされてきた組成領域にスピンホール効果材料の代表格であるPtに匹敵するほどの大きなスピンホール効果を出す非平衡合金(※3)が存在することを発見しました。

今回の成果は、非平衡合金の新たな可能性を切り拓いたことと、エレクトロニクス素子の製造プロセスとの相性が良いCu基合金において大きなスピンホール効果を実現できたことがポイントであり、スピンホール効果を動作原理とするスピンオービトロニクス素子の低消費電力化に貢献でき、素子開発がより加速するものと期待されます。

本研究は、Communications Materialsに10月14日にオンライン公開されました。

図1 (a) コンビナトリアル成膜技術によって作製した組成傾斜膜の模式図。CuおよびIrのウェッジ膜を交互に積層させることで、膜面内での組成傾斜を実現している。この組成傾斜膜から成る2本のワイヤーを準備した。(b) スピンペルチェ効果の模式図。Cu-Ir合金に電流を流すと、スピンホール効果により電流と直交方向にスピン流が現れる。このスピン流と今回用いたY3Fe5O12磁性絶縁体基板の磁化とが相互作用することでワイヤーの面垂直方向に熱流が生じる。スピンペルチェ効果による温度変化の大きさはスピンホール角に比例している。

【用語解説】

※1 スピン流
スピン角運動量の流れ。電子スピンは自転しており、(スピン)角運動量を持っている。この電子スピンを上向きスピンと下向きスピンに区別すると、上向きスピンの流れ Jと下向きスピンの流れ Jを用いて電流は J+ Jと表すことができる。一方で、スピン流は J- Jで表される。JJが異なる強磁性体では電荷の流れを伴うスピン流が生じ、上向きスピンと下向きスピンが同数存在する非磁性体では JJが逆方向に流れることにより J- (- J)の純スピン流を生成することができる。

※2 スピンホール効果
スピン軌道相互作用の大きな非磁性体に電流を流すと、電流の横方向にスピン流が生じる現象。非磁性体を流れる電流はスピン分極していないが(上向きスピンと下向きスピンの数は同数で J- J= 0となるが)、スピン軌道相互作用により上向きスピンと下向きスピンが逆方向に散乱されることにより、電流の横方向に J- (- J)のスピン流を発生できる。これは電荷の流れを伴わない純スピン流となる。

※3 非平衡合金
2種類以上の元素から構成される合金は、その組成や温度、圧力によって安定に存在する状態(固体か液体か)や結晶の構造が変わり、それらは相と呼ばれる。平衡状態でどのような相が現れるかを表した図が平衡状態図であり、本研究では平衡状態図に存在しない相を非平衡合金と呼んでいる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

◆研究内容に関して
東北大学金属材料研究所
磁性材料学研究部門
関 剛斎
TEL:022-215-2097
Email:go-sai*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

◆報道に関して
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
FAX:022-215-2482
Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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